2015年度工学院大学大学院・情報学専攻

感性情報科学特論(Kansei Information Science)[5507]


2単位
椎塚 久雄 非常勤講師  [ 教員業績  JP  EN ]
最終更新日 : 2015/10/17

<授業のねらい及び具体的な到達目標>
 感性工学は本来「人間のもつ感性をものづくりに取り入れる方法」として発展してきたが,最近の感性工学の発展動向をみると,たんなるものづくりやデザインの領域にとどまらず関連領域の広範囲に及んでおり,それはこの分野の顕著な特徴の一つである.このことは最近の感性工学関連の学会等の発表内容からも推し量ることができる.

 デカルト的二元論は,近代科学のひとつの基礎とされ,モノとココロを別のものと整理して,自覚できるこころの働き(=意識)と知覚,計測できる空間的な広がり(=延長/数値やCGS単位系で表現されるもの)を実体と考えてきた.しかし,感性科学では,脳を拠点と定めて,心と物質世界を統一することが構想されている.すなわち,そこには論理の世界だけではなく,「論理+心のフィット感」が重要な要素として横たわっている.現代社会において,私たちの心を動かし,信頼させるのは科学的な手順(=デカルト的手順)である.デカルト的なアプローチが届きにくいと思われる感性科学の場合も,論理的矛盾がないこと,再現性があること,実証的でだれがやっても同じ結果が出るというような手順を踏むデカルト的処理は重要であることも忘れてはならない.言い換えれば,匠の技をいかにして普遍的な形で定量化して,その感性の本質を抽出するかということである.

 感性に関する研究は基本的には「心地よさ,美しさ,おもしろさ,楽しさ」等のポジティブな情動を必須の属性とする心の働きに関連する内容を扱うことになる.この心のはたらき(反応)を“感性”と呼んでいる.そして,このような感性反応を生み出す刺激となる情報は“感性情報”である.したがって,感性反応を生み出す度合いは人によって異なるから,感性情報の取り扱いは個人差があり,感性は個人個人みな異なることの由来はここにある.この感性を人工的に創り出そうとする分野が“人工感性”の世界である.人工感性は個を対象にしているのに対して自然感性は群を対象としていると言ってもよい.感性情報を集めたり,作ったり,作り変えたり,蓄えたり,そして伝えたりする手続きは“感性情報処理”と呼ぶことができるが,これは自然感性と人工感性が混在することになり,“感性”,“感性情報”,“感性情報処理”の三つの項目は感性科(工)学の三本柱であり,これらに関連する研究は今後の発展に期待されるところが大である.

 「ものをつくるときに重要なのは感性である」とよくいわれるが,そもそも感性とは何かということを真剣に問うときに来ていると思う.どちらかというと日本人は,漠然としたイメージだけで“感性”という言葉を大事にしすぎているのではないかと言われている.何だかよくわからなく「ふわっと漠然としている感性」という言葉だけを包み込んで祀ってしまっている部分があるという.そういう意味では,まさにいま,感性価値創造のメカニズムを真剣に議論するときにさしかかっていると思う.

 技術と心理(感性)の適切な融合,適正バランスの回復は,今後感性工学が個別の議論から脱して統合した議論へ向かうことで達成されることが期待されるであろう.感性工学は横断(総合)科学であり,心理学,認知科学,神経科学,社会学,経営学,教育,精神生理学,価値中心デザイン,倫理,および工学とコンピュータサイエンスにおける専門的技術の統合に向け歩む必要がある.そのためには,「技術的+芸術的+コラボレーション精神の能力」等がうまく融合した形で歩まなければならない.感性価値創造は感性工学の中でも,より周辺領域とのコラボレーションが必要な分野であり,全体像を見つめた上で進めて行くことが必要であろう.

 この授業では、以上のような観点に立って感性科学(工学)のいくつかの側面から議論し、今後あらゆる分野で重要視されるであろう感性に関する分野の基礎的な考察を行い、より豊かな人間生活を営む上での指針を探求することを目的とする。

<授業計画及び準備学習>
1.感性科学(工学)を研究する意義
2.感性の歴史とその価値
3.デザインと感性工学
4.感性(美)とエントロピー
5.感性(美)と知覚
6.感性とゆらぎ
7.美(感性)の静的事象(1)(詩歌/絵画/工芸/庭園)
8.美(感性)の動的事象(2)(音楽/舞踊/動物/鳥・魚/航空機)
9.アフェクティブコンピューティング/感情とコンピュータ/感情の認識/感情の表現
10.アフェクティブイノベーション
11.アフェクティブデザインとユーザエキスペリエンス(UX)
12.感情と知性/意思決定/学習/記憶
13.デザイン思考と感性
14.感性価値創造/感性マーケティング
15.まとめ

<成績評価方法及び水準>
出席および課題に対するレポートの評価。

<教科書>
教科書は特に使用しない。毎回の授業の資はキューポートにアップしておくので、ダウンロードして使用すること。

<参考書>
椎塚久雄編著:「感性工学ハンドブック」朝倉書店。

<オフィスアワー>
・金曜日15時から15時40分までの40分間、新宿講師室。
・金曜日の授業終了後の教室にて。
・あるいはメール shiizuka@cc.kogakuin.ac.jp で質問事項を予め知らせて下さい。そのときに具体的な方法を指示します。

<学生へのメッセージ>
好奇心が最強の友であることをいつも思い出してほしい。


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