2015年度工学院大学大学院・情報学専攻

音響信号表現特論(Signal Representation for Acoustic Events Modeling)[4306]


2単位
中島 弘史 准教授  [ 教員業績  JP  EN ]
最終更新日 : 2015/10/17

<授業のねらい及び具体的な到達目標>
音響学の基礎を踏まえた上で、音響処理を理解し実践することを目標とする。具体的には、音圧レベル、周波数スペクトルなどの音響用語の理解、離散フーリエ変換、畳み込みなどの信号処理概念の理解、音響処理のプログラムを自ら考えて構築できる技術の習得を目的とする。

<授業計画及び準備学習>
1.音の基礎(1) 音響学とは,音と音波,音の伝播
 目標:音響学の分野,歴史,音の物理の基礎を理解することを目標とする。音の物理については,音圧,粒子速度,音速,周波数,波長,インテンシティ,インピーダンスなどの用語に加え,平面波,球面波,反射,回折,屈折などの音の伝播に関する知識を習得することを目標とする。

2.音の基礎(2) 音圧レベル,周波数スペクトル
 目標:音響計測の基礎となる音圧レベルや音の周波数特性について理解する事を目標とする。具体的には,日常生活でのさまざまな音のレベルがどの程度の値であるのかや,波形からRMS値を算出したり,音圧[Pa]と音圧レベル[dB]の相互変換ができるようになる事を目標にする。

3.音を聞く仕組み
 目標:音の方向を知覚する仕組みや聴覚の構造を理解することを目標にする。具体的には,ILD,ITD,頭部伝達関数などの用語の意味を理解すること,また平面波と球面波の伝達関数を数式で表現し,その意味を説明できるようになる事を目標とする。

4.音の収録
 目標:マイクロホンの種類や基本的構造を理解するとともに,周波数特性,ダイナミックレンジ,指向特性などの用語の意味や,ファンタム電源やプラグインパワーなどを必要とするマイクロホンの実際の使い方,騒音計の基本的な使い方についても理解することを目標にする。

5.音の再生
 目標:スピーカ,ヘッドホンなどの種類や基本的構造を理解するとともに,マルチウェイスピーカ,バスレフなど構造や意味の理解,またアンプとスピーカの接続方法や端子の種類(RCAピン,ミニプラグ,標準プラグ,XLR)などを理解することを目標とする。

6.音楽と音響
 目標:音階と周波数の関係,調律,和音,楽器の発音原理や,コンピュータによる音の合成方法などについて理解することを目標にする。

7.達成度評価(中間試験)

8.音響信号の表現(1) 時間領域表現,AD変換とサンプリング定理
 目標:AD変換とサンプリング定理を理解するとともに,MATLABを用いて正弦波や矩形波などを作成し,その波形を音として再生できるようになることを目標とする。

9.音響信号の表現(2) 周波数領域表現,フーリエ変換
 目標:フーリエ変換によって時間領域の信号を周波数領域の信号に変換できる原理を,ベクトルの線形結合と内積による成分の算出という観点で理解することを目標にする。またMATLABを用いて,時間波形ベクトルに対しDFT行列を乗算することにより,フーリエ係数を算出しグラフに出力できるようになることを目標にする。

10.音響信号の表現(3) 時間周波数領域表現,短時間フーリエ変換,スペクトログラム
 目標:短時間フーリエ変換(STFT)によってスペクトログラムを算出できる原理を理解するとともに,窓関数および時間幅と周波数分解能の関係についても概説できるようになることを目指す。また実際にMATLABを用いてスペクトログラムを算出しイメージ画像として表示できるようになることを目標とする。

11.音響信号の表現(4) 解析的信号表現,ヒルベルト変換,瞬時周波数,包絡線
 目標:MATLABを用いて,実時間信号から解析的信号を算出し,元の信号の瞬時周波数と包絡線を計算で求めることができるようになることを目標とする。またヒルベルト変換の意味を理解することを目標とする。

12.伝達特性の表現(1) インパルス応答,畳み込み,伝達関数
 目標:線形システムの定義,重ね合わせの理,インパルス応答,畳み込みなどを理解し,実際に畳み込みの計算や,入力信号とインパルス応答から出力信号が計算できることを証明できるようになることを目標とする。またMATLABを用いて実際に,入力信号とインパルス応答の畳み込み計算を行うことで残響の付加ができるようになることを目標とする。

13.伝達特性の表現(2) Z変換,極零モデル,全零モデル,線形予測
 目標:Z変換およびZ領域での乗算による畳み込み,逆システム,Z平面上の極・零の位置から,おおよその伝達関数の特徴をつかむことができるようになることを目標とする。また線形予測の原理について理解することを目標とする。

14.達成度評価(最終試験)

15.音響信号処理分野の研究紹介
 目標:音響信号処理分野での代表的な研究テーマや最先端の研究テーマと,その研究で用いられる各種信号処理のアルゴリズムについておおよその処理内容を理解し,自らの研究テーマを遂行する上での有用な情報として役立てること目標とする。

<成績評価方法及び水準>
授業中に出す課題と中間および最終試験の得点によって評価する。総合評点が60点に僅かに達しない場合には、授業中の課題の提出状況等を鑑みて、追加のレポート課題等を与え、提出された内容が単位認定相当と判断される場合には最終成績を60点とする。

<教科書>
鈴木陽一、赤木正人、伊藤彰則、佐藤洋、苣木禎史、中村健太郎
「音響学入門」日本音響学会編、コロナ社、2011

<参考書>
東山三樹夫「信号解析と音響学」シュプリンガージャパン、2007
岩宮眞一郎「よくわかる最新音響の基本と応用」秀和システム、2011

<オフィスアワー>
質問等は授業中および授業終了後に対応します。他の時間を希望する場合は、メールにてご連絡ください。(nakajima@cc.kogakuin.ac.jp)

<学生へのメッセージ>
音は皆さんにとっても、携帯音楽プレーヤーや音楽ゲームなどによって身近な存在だと思います。音の信号処理技術は、さまざまな所で利用されています。たとえば、PRGで洞窟の中に入った時に、足音などが響いて聞こえる効果は、「畳み込み」で計算されています。授業をまじめに受講し、課題や演習に取り組めば、内容とその面白さがわかると思います。前半の授業は教科書を元に進めますので、教科書の購入を強く推奨します。教科書は、音響学の入門書で、さまざまな分野の入門部分をコンパクトにまとめた良い本です。


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