2019年度工学院大学 先進工学部環境化学科

文学B(Literature B)[1K44]

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2単位
永野 宏志 非常勤講師  
最終更新日 : 2019/11/12

<学位授与の方針>
1. 基礎知識の習得
2. 専門分野知識の習得
3. 汎用的問題解決技能
4. 道徳的態度と社会性

<授業のねらい>
この講義は、IT(インフォメーションテクノロジー)とBT(バイオテクノロジー)が指数関数的進化を遂げ、GNR(遺伝学、ナノテクノロジー、ロボット工学)が無制限の最小化を目指しつつウェアラブルまで来た現在から、IoT(インターネット・オブ・シングス)の進化によって人間なしの機械同士のネットワークへと向かう未来をフィクションの側から見つめ直す。その具体例として、ITとBTに熟知した伊藤計劃(+円城塔)の2000年代の3冊の小説作品を、半分だけ後ろ向きの歴史に沿って進行する予定である。ただし、あとの半分は私たちの目の前に広がり身体を包む世界の未来を見据えたい。
そのため、まず私たちは「人間ではない」という立場から出発しよう。非生物的機械に触れ、手に持ち、体内にさえ取り入れる私たちはサイボーグであり、さらにはそれに操作されるロボット(またはゾンビ)かもしれない。この傾向は、コンピュータの指数的進化による際限ない小型(ミクロ、ナノ)化によってもたらされ、この進化の先に人工知能の処理能力が人間の知能を追い越す「技術的特異点」が来るという議論をも巻き起こしている。加えて、それを先取りし折り込んでIT化した政治経済が作動しているのであれば、現実こそがSF的なのだ。ならば、この進化を集約した小さく強力な怪物をカバンやポケットに棲み着かせている私たち非人間は、非生物的な知能と対話し、融合さえしようとする世界へ進みつつあるといえる。そのような事態にある私たちを、この講義では「トランスヒューマン」と呼び、この講義のテーマを<私たちトランスヒューマンとフィクションとの関係について>としたい。

<受講にあたっての前提条件>
ITパスポート資格とプログラミングの基礎程度の知識を有することが望ましい。また講義開始以前に教科書に指定した3作品を事前に読んでおくこと。また、講義最後に次回に扱う作品の該当箇所を発表するので予習しておくこと。

<具体的な到達目標>
すでにMMI(マンマシン・インターフェース)からBMI(ブレインマシン・インターフェース)への架け橋となり、自らすすんでスマホゾンビと化して、生きる環境自体をVR(バーチャル・リアル)に占有させるがままの私たちの世界で、何が起こっているのか、テクノロジーはこれから何をしようとしているのか、という問いを導出するための、フィクションの新たな使用法を身に着けることが、この講義の目標である。

<授業計画及び準備学習>
第1回 伊藤計劃紹介 シンギュラリティ問題と現実としてのSF、『虐殺器官』、『ハーモニー』、『屍者の帝国』冒頭から
    準備学習:今まで読んだSFをリストしておくこと
第2回 1980〜90年代のIT、BTとサイバーパンク-『鉄男』『AKIRA』『攻殻機動隊』『MATRIX』における道具としてのAI
    準備学習:前回の復習
第3回 『虐殺器官』(1) カフカの管理された都市プラハとシステムとしての都市、環境としてのAI
    準備学習:前回の復習
第4回  『虐殺器官』(2) ナノ化する技術、兵士としての主体、サブジェクトからエージェントへ
    準備学習:前回の復習
第5回  『虐殺器官』(3) プログラミングの対象となったヒト生命体、普遍文法とクレオール
    準備学習:前回の復習
第6回 ゼロ年代から流行するタイムリープもの『時をかける少女』『All you need is kill』『僕だけがいない街』での出来事、物語、リニアな時間の用法と伊藤作品との比較
    準備学習:前回の復習
第7回 前半の振り返り(中間試験)
    前半の総復習
第8回 『ハーモニー』(1)  ユートピアとしての医療型AI管理社会、最大多数の最大幸福に向かう統計的思考
    準備学習:前回の復習
第9回 『ハーモニー』(2)  管理社会が強化されるほど大きくなる脆弱性と自己の内部に潜在するテロリズム
    準備学習:前回の復習
第10回  『ハーモニー』(3) ハーモニープログラム発動のトップダウン的性格とそれを語るAIのデータの外の世界
    準備学習:前回の復習
第11回 『屍者の帝国』(1)  ソフトウェアをインストールされる屍者とゾンビの違い、歴史改変物語と歴史の違い
    準備学習:前回の復習
第12回  『屍者の帝国』(2) ロボットとアンドロイドの違いと共通点、心身二元論とユダヤ・キリスト教
    準備学習:前回の復習
第13回  『屍者の帝国』(3) 紙に書かれた手記と電子化された手記の違い、多元的草稿モデルとしての意識
    準備学習:前回の復習
第14回 学期末試験

<成績評価方法>
毎回講義冒頭にマンダラチャートを配布し、冒頭発表するテーマから連想されるキーワードを81個埋める作業をしながら講義を進める。最後の10分程度その回のテーマに即した課題に対して既述のキーワードから3つ以上選んで記述し、平常点(20点)とする。さらに、中間試験と期末試験を実施し(40+40=80点)、3者併せて総合的に評価する。また、私語、居眠りのたぐいはその場でマンダラチャート作業を怠り、授業参加を拒んでいると見做して単位なしとし、その場で退室してもらう。

<教科書>
伊藤計劃『虐殺器官』(ハヤカワ文庫)、伊藤計劃『ハーモニー』(ハヤカワ文庫)、伊藤計劃+円城塔『屍者の帝国』(河出文庫)

<参考書>
レイ・カーツワイル『シンギュラリティは近い』(NHK出版)、ダニエル・C・デネット『解明される意識』(青土社)、ニック・ボストロム『スーパーインテリジェンス』(日本経済新聞出版社)、桜井芳雄『脳と機械をつないでみたら』(岩波現代全書)、P・W・シンガー『戦争請負会社』(NHK出版)、テッド・チャン『あなたの人生の物語』(ハヤカワ文庫)、マックス・テグマーク『数学的宇宙』(講談社)、スティーブン・ピンカー『言語を生み出す本能』(NHKブックス)、マイケル・S・ガザニガ『脳のなかの倫理』(紀伊國屋書店)、アンディ・クラーク『生まれながらのサイボーグ』(春秋社)、NHK「NEXT WORLD」取材班『NEXT WORLD』(電子書籍版 NHK出版)

<オフィスアワー>
教員室にて、月曜講義の前後10分程度

<学生へのメッセージ>
人間の知性をコンピュータの知性が超えるとカーツワイルが予測した技術的特異点(別名2045年問題)が迫ってくる事態が想定される場合、<予知>や<予言>のような一過性の思い付きではなく、私たちはどんな想像力と論理力によって<予測>する力を養えばよいのか? その際に必要な実践的な想像力を、現在をしっかり見据えた近未来フィクションを例に鍛えていただきたい。

<備 考>
上記の参考書欄に入り切れないITとBTが作る現状から未来を知るためのカタログ的説明書としては、岡本裕一朗『いま哲学者が考えていること』(ダイヤモンド社)を、日本のコンピュータ史としては、情報処理学会歴史特別委員会編『日本のコンピュータ史』(Ohshima)をさらに参照されたい。


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