2019年度工学院大学 先進工学部生命化学科

錯体化学(Coordination Chemistry)[2H31]

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2単位
大石 理貴 非常勤講師  
最終更新日 : 2019/11/12

<学位授与の方針>
1. 基礎知識の習得
2. 専門分野知識の習得
3. 汎用的問題解決技能
4. 道徳的態度と社会性

<授業のねらい>
錯体は、合成化学、生命科学、材料科学などの研究分野で広く利用されている。それは、錯体が無機化学物質である金属と有機化合物である配位子の融合によって多様な構造、電子状態を創出するからであり、今後も科学技術の進展に重要な役割を担うであろう。本授業では、金属と有機分子により構成されるd金属錯体の多様な電子構造、物性、反応性の基礎を体系的に理解することで錯体化学の素養を身につけると同時に、錯体化学の実例について学ぶことで化学技術者としての考察力と応用力も養う。

<受講にあたっての前提条件>
予め基礎的な無機化学、有機化学、物理化学を受講していることが望ましい。

<具体的な到達目標>
1)金属錯体の結合様式と配位構造の特徴を理解する。
2)金属と配位子により形成される電子状態を理解する。
3)錯体の構造や性質の解析手法について理解する。
4)錯体の主要な反応性について理解する。
5)触媒化学における錯体の機能について理解する。
6)生命科学における錯体の機能について理解する。

<授業計画及び準備学習>
1.現代の錯体化学
[学習内容] 遷移金属錯体の歴史的発展を概観し、錯体を構成する金属、配位子の多様性を知ることで錯体化学における有機金属化学の位置づけを理解することができる。また、IUPAC無機化学命名法に則った錯体の基本的な命名法を習得することができる。
[準備学習] これまでに学習で得た錯体化学に関する基礎知識を復習しておくこと(例えば、参考書「理工系基礎レクチャー 無機化学」chapter 14 “錯体化学の基礎”の内容)。
2.錯体の構造
[学習内容] 中心金属の配位数、錯体の立体構造(異性体を含む)について具体例を通して学ぶことで、錯体の構造を分類することができる。その際、配位子の種類(X型、L型)、数、立体的要因、金属中心のd電子が錯体の構造を決定していることを理解する。
[準備学習] 配布資料を参照し、一部の錯体の構造と5つのd軌道の形、向きと分裂の仕方を予習しておく。
3.金属と配位子の結合様式、錯体の電子数
[学習内容] 分子軌道の概念を用いて中心金属と配位子の結合様式について理解することができる。また、EAN則に基づく錯体の電子数の数え方を習得する。
[準備学習] 配布資料を参照し、学習内容と疑問点を整理しておくこと。
4.分子の対称性と群論
[学習内容] 対称操作、点群について学び、具体例を通して、指標表の見方や基本的な使い方を習得することができる。
[準備学習] 配布資料を参照し、知識を定着させるとともに、学習内容と疑問点を整理しておくこと。
5.結晶場理論と配位子場理論
[学習内容] 初期に提案された結晶場理論と、その後に発展し確立された配位子場理論を学ぶことで、八面体型錯体を中心に錯体形成による安定化や電子反発による不安定化を理解することができる。また、第4回までに学習した知識を応用し、対称適合線形結合によって、金属中心(d軌道)と配位子(σ結合、π結合)との結合性軌道を考察する。
[準備学習] 配布資料と参考書「理工系基礎レクチャー 無機化学」chapter 16 (16.2) “d軌道の分裂”を参照し、知識を定着させるとともに、学習内容と疑問点を整理しておくこと。
6.電子スペクトルと磁性
[学習内容] 電子スペクトルにおける吸収帯(d–d遷移、スピン禁制遷移、電荷移動遷移)を分類し、d–d遷移と配位子場分裂との関係を学ぶ。錯体の色や磁性が配位子場による錯体の構造や電子状態を反映していることを理解することができる。
[準備学習] 配布資料を参照し、知識を定着させるとともに、学習内容と疑問点を整理しておくこと。
7.錯体の構造を同定する一般手法
[学習内容] 錯体の溶液状態、結晶状態の構造を決定するために用いられる一般的な分析手法に触れる。これらを駆使して、錯体の構造が多角的に決定されることを理解することができる。
[準備学習] 配布資料にある知識を定着させるとともに、学習内容と疑問点を整理しておくこと。
8.有機金属錯体の構造解析
[学習内容] 汎用性の高いNMR、IR分光法を用いる有機金属錯体の構造解析の例に触れることで、有機化合物の構造解析との共通点や相違点を学ぶことができる。
[準備学習] 化学実験でNMRスペクトルの基礎を学習していればこれを復習し、配布資料にある知識を定着させるとともに、学習内容と疑問点を整理しておくこと。
9.配位子置換反応
[学習内容] 錯体の安定性、配位子置換反応とその分類について学ぶ。置換反応の起こりやすさや選択性について予測することができる
[準備学習] 配布資料と参考書「理工系基礎レクチャー 無機化学」chapter 19 (19.1) “配位子置換反応”を参照し、知識を定着させるとともに、学習内容と疑問点を整理しておくこと。
10.電子移動反応
[学習内容] 電子移動反応における内圏機構と外圏機構について学ぶ。2つの金属中心の間で進行するこれらの電子移動が多段階で進行し、錯体や架橋配位子の種類によって電子移動速度が異なってくることを理解することができる。
[準備学習] 配布資料と参考書「理工系基礎レクチャー 無機化学」chapter 19 (19.2) “電子移動反応”を参照し、知識を定着させるとともに、学習内容と疑問点を整理しておくこと。
11.錯体の主要な素反応
[学習内容] 酸化的付加、還元的脱離、挿入反応などの主要な素反応について学ぶ。これらの素反応の前後の錯体の状態(配位数、電子数、酸化数など)を理解することができる。
[準備学習] 配布資料を参照し、知識を定着させるとともに、学習内容と疑問点を整理しておくこと。
12.均一系触媒反応への応用
[学習内容] 代表的な触媒反応における錯体の触媒としての機能を学ぶ。錯体の主な素反応を組み合わせ、それらの触媒サイクルを記述することができる。
[準備学習] 配布資料を参照し、知識を定着させるとともに、学習内容と疑問点を整理しておくこと。
13.生命科学への応用
[学習内容] 生命科学において錯体が応用されている代表例を学ぶ。錯体化学的な視点でそれらの機能を理解することができる。
[準備学習] 配布資料を参照し、知識を定着させるとともに、学習内容と疑問点を整理しておくこと。
14.学習内容の振り返り
[学習内容] 錯体化学に関する学習を通して得られた知識の再確認と疑問点の解消を行う。また、定期試験の問題について解説する。
[準備学習] 前回までの配布資料、授業ノートを復習し、理解した点と問題の残っている点を整理しておくこと。

<成績評価方法>
定期試験の結果(50%)と授業への参加度(出席・課題・確認テストなど)(50%)を考慮し評価する。A+〜Fの段階評価でD以上の者を合格とする。定期試験期間に試験を実施する。

<教科書>
教科書は指定せず、電子教材を配布する。

<参考書>
○「新版 錯体化学 基礎と最新の展開」基礎錯体工学研究会編(講談社サイエンティフィク)
○「シュライバー・アトキンス無機化学(下) 第6版」Mark Weller他著 田中勝久他訳(東京化学同人)
○「錯体化学 基礎から応用まで」長谷川靖哉、伊藤 肇著(講談社)
○「理工系基礎レクチャー 無機化学」鵜沼英朗、尾形健明著(化学同人)

<オフィスアワー>
授業終了後に教場で。事前にメール(oishi.m.ac@m.titech.ac.jp)で連絡を入れることが望ましい。

<学生へのメッセージ>
講義ではスライドによる説明もありますが、ノートや筆記用具(黒ペンのほか数色のペンも)は必ず持参し、板書する事柄や図を書きとめるよう心がけてください。また、参考書は、新宿図書館に配架される予定です。積極的に図書館を活用してください。


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