2019年度工学院大学 情報学部情報デザイン学科

文学A(Literature A)[1K43]

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2単位
永野 宏志 非常勤講師  
最終更新日 : 2019/11/12

<学位授与の方針>
1. 基礎知識の習得
2. 専門分野知識の習得
3. 汎用的問題解決技能
4. 道徳的態度と社会性

<授業のねらい>
IT経済の進行によってリスク社会のただ中に投げ出され,不安定な生活を強いられる現代では,安心や快楽は一時的な回避にしか役立たない。リスクとセキュリティーによって管理されたこのサイバーな現実では,クリック一つで世界に繋がる一方,そこに繋がれない生きた体は日々声なき悲鳴をあげる。未来への恐怖が統計的に予測され,安全が押し売りされるこの生活世界は,どこか恐怖小説の人物たちがさまよう出口なしの時空に似ている。
 この講義では,土地に縛られた「Horror」からクラウド化し無差別になる「Terror(テロ)」へと転回する恐怖小説を扱い、産業革命と同時期に成立した経済学と恐怖小説の関係を、直線状の時間と平面的空間の活用の一例として考察する。日本の怪談や欧米のゾンビ映画の歴史、さらに宗教観の違いにまで遡る場合もあるが,講義の中心は1990〜2010年代である。日本の恐怖小説を中心に,欧米の恐怖小説との比較検討によって進行していく予定である。

<受講にあたっての前提条件>
テーマの性質上、感情を左右するシーンを扱う場合があるので、予め了承し、心して講義に臨んでもらいたい。

<具体的な到達目標>
不安と恐怖によってコントロールする物語パターンを覚え、それに備えた上で、リスクと管理に塗れるビッグデータ社会を自分のなかに見出し、この社会に抵抗力をつける基礎を身に着けることが目標である。

<授業計画及び準備学習>
第1回 『呪怨』(ビデオ版)/「本源的蓄積」(土地の収奪)における被害者-加害者関係の反転と土地にまつわる古典的恐怖と恐怖を誘発する場所(水場、屋根裏、エレベータ)
    準備学習:今まで見た恐怖映画・恐怖小説をリストしておくこと
第2回 『着信アリ』/「恐怖の家」をグローバル化させる携帯電話と現代的恐怖
    準備学習:前回の復習
第3回 『リング』/情報化における土地を巡る写真とビデオの違い(ダビング、拡散、RT、シェア)
    準備学習:前回の復習
第4回 『リング』(ハリウッド版)/古典的恐怖と現代的恐怖の表現に関する東西の演出の違い
    準備学習:前回の復習
第5回 『CUBE』+『仄暗い水の底から』/エレベータ(上昇下降空間)での東西演出:流通を恐怖させる血と水
    準備学習:前回の復習
第6回 『●REC』/血の政治のグローバル化:流通の恐怖に加わる感染という新たな要素(1)
    準備学習:前回の復習
第7回 前半の振り返り(中間試験)
    前半の総復習
第8回 『SAW』+『エクソシスト』+『ドラキュラ』/過去に縛る操作術(1)血と純粋/不純の政治
    準備学習:前半の復習
第9回 『感染』/水の政治のグローバル化:流通の恐怖に加わる感染という新たな要素(2)
    準備学習:前回の復習
第10回 『死国』+ 『輪廻』+『エクステ』/過去に縛る操作術(2)水と穢れ/浄化の政治
    準備学習:前回の復習
第11回 『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』+『パラノーマル・アクティビティ』/ハンディカムと音声情報だけのリスク社会
    準備学習:前回の復習
第12回 『パラノーマル・アクティビティ第2章 東京ナイト』/生政治と知政治の合体としてのグローバル社会
    準備学習:前回の復習
第13回 『予言』『クロユリ団地』/ゼロ年代のゲームの中でリセットされ続ける悲惨な出来事
    準備学習:前回の復習
第14回 学期末試験

<成績評価方法>
毎回講義冒頭にマンダラチャートを配布し、冒頭発表するテーマから連想されるキーワードを81個埋める作業をしながら講義を進める。最後の10分程度その回のテーマに即した課題に対して既述のキーワードから3つ以上選んで記述し、平常点(20点)とする。さらに、中間試験と期末試験を実施し(40+40=80点)、3者併せて総合的に評価する。また、私語、居眠りのたぐいはその場でマンダラチャート作業を怠り、授業参加を拒んでいると見做して単位なしとし、その場で退室してもらう。

<教科書>
指定教科書なし。対象とする小説は多岐にわたるので、毎回プリント等を配布し、必要な文献はDVD、ビデオでそのつど提示する。(第1回目に大まかな対象作品リストを配布する。)

<参考書>
荒俣宏『ホラー小説講義』(角川書店)、河合祥一郎編『幽霊学入門』(新書館)、P・ヴィリリオ他『恐怖』(Libro),D・ガードナー『リスクにあなたは騙される』(早川書房)、K・マルクス『資本論 』(全5冊)(大月書店)、D・ハーヴェイ『新自由主義』(作品社),U・ベック『世界リスク社会論』(ちくま学芸文庫)、J・クイギン『ゾンビ経済学』(筑摩書房)、戸田山和久『恐怖の哲学』(NHK出版新書)

<オフィスアワー>
教員室にて、月曜講義の前後10分程度

<学生へのメッセージ>
文学をエンタテーメントとしてでなく、不安と恐怖によって管理する社会のサンプルとして捉えるとともに、感情は生命の本能ではなく,教育された習慣であり,この無意識的な習慣に政治経済が操作を加えることで管理が可能になる点を,各自理解し、社会に出るきっかけを少しでも掴んでもらいたい。


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