2016年度工学院大学 建築学部

近代の文学(Modern Japanese Literature)[1K25]

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2単位
永野 宏志 非常勤講師  
最終更新日 : 2016/10/27

<学位授与の方針>
1. 基礎知識の習得
2. 専門分野知識の習得
3. 汎用的問題解決技能
4. 道徳的態度と社会性
5. 創成能力

<授業のねらい>
グローバル経済が進行し、不安定な生活を強いられる現代で、安心や快楽は一時的な回避にしか役立てない。リスクとセキュリティーによって管理されたこのサイバーな現実では、クリック一つでデジタル世界に繋がってしまう。この世界によって未来の恐怖が統計で予測され、安全が押し売りされるこの生活が、勝てば終了するゲーム的物語よりも、いつまでも終わらない恐怖小説の空間に似ている事を知るだろう。
この講義では、クラウド化し無差別になる恐怖として「Terror(テロ、恐怖)小説」なる現代的テーマを設定し、マルクス『資本論』以後の政治経済のキーワードを紹介しながら進行する。扱う対象は主に1990〜2010年代までの日本の恐怖小説だが、日本古来の怪談、西洋のゾンビ伝説、アジアの恐怖小説との比較も含めて、恐怖を古典的/現代的、日本的/西洋的の二つのコードから考察しながら、進行していく予定である。

<受講にあたっての前提条件>
テーマの性質上、感情を左右するシーンを扱う場合があるので、予め了承し、心して講義に臨んでもらいたい。

<具体的な到達目標>
不安と恐怖によってコントロールする物語パターンを覚え、それに備えた上で、リスクと管理に塗れるビッグデータ社会を自分のなかに見出し、この社会に抵抗力をつける基礎を身に着けることが目標である。

<授業計画及び準備学習>
第1回 『呪怨』(ビデオ版)/「本源的蓄積」(土地の収奪)と被害者-加害者関係の反転する恐怖小説
    準備学習:今まで見た恐怖映画・恐怖小説をリストしておくこと
第2回 『呪怨』(劇場版)/土地にまつわる古典的恐怖と恐怖を誘発する場所(水場、屋根裏、エレベータ)
    準備学習:前回の復習
第3回 『着信アリ』/「恐怖の家」をグローバル化させる携帯電話と現代的恐怖
    準備学習:前回の復習
第4回 『リング』/情報化における土地を巡る写真とビデオの違い(ダビング、拡散、RT、シェア)
    準備学習:前回の復習
第5回 『リング』(ハリウッド版)/古典的恐怖と現代的恐怖の表現に関する東西の演出の違い
    準備学習:前回の復習
第6回 『CUBE』+『仄暗い水の底から』/エレベータ(上昇下降空間)での東西演出:流通を恐怖させる血と水
    準備学習:前回の復習
第7回 『●REC』/血の政治のグローバル化:流通の恐怖に加わる感染という新たな要素(1)
    準備学習:前回の復習
第8回 『SAW』+『エクソシスト』+『ドラキュラ』/過去に縛る操作術(1)血と純粋/不純の政治(前半の振り返り:中間試験)
    準備学習:前半の復習
第9回 『感染』/水の政治のグローバル化:流通の恐怖に加わる感染という新たな要素(2)
    準備学習:前回の復習
第10回 『死国』+ 『輪廻』+『エクステ』/過去に縛る操作術(2)水と穢れ/浄化の政治
    準備学習:前回の復習
第11回 『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』+『パラノーマル・アクティビティ』/ハンディカムと音声情報だけのリスク社会
    準備学習:前回の復習
第12回 『パラノーマル・アクティビティ第2章 東京ナイト』/生政治と知政治の合体としてのグローバル社会
    準備学習:前回の復習
第13回 『予言』/ゼロ年代のゲームの中でリセットされ続ける悲惨な出来事
    準備学習:前回の復習
第14回 『クロユリ団地』/ゲーム内物語のリアルを作る出来事への後悔を頻発させるリスク社会
    準備学習:前回の復習

<成績評価方法>
毎回講義後半の10分程度その回のテーマに即した課題をその場で記述して平常点(20点)とし、さらに、中間・期末試験を実施し(計80点)、両者併せて総合的に評価する。ただし2015年度以後の1年生についてはGradeD以上の者に単位を認める。また、私語、居眠りのたぐいはその場で単位なしとみなし、退室してもらう。

<教科書>
指定教科書なし。対象とする小説は多岐にわたるので、毎回プリント等を配布し、必要な文献はDVD、ビデオでそのつど提示する。(第1回目に大まかな対象作品リストを配布する。)

<参考書>
荒木飛呂彦『荒木飛呂彦の奇妙なホラー映画論』(集英社新書)、K・マルクス『資本論 第1巻』全5巻(大月書店)、A・ネグリ/M・ハート『<帝国>』(紀伊国屋書店)、D・ハーヴェイ『新自由主義』(作品社)、M・ラッツァラート『<借金人間>製造工場』(作品社)、ウルリッヒ・ベック『世界リスク社会論』(ちくま学芸文庫)

<オフィスアワー>
教員室にて、月曜講義の前後10分程度

<学生へのメッセージ>
文学をエンタテーメントとしてでなく、不安と恐怖によって管理する社会のサンプルとして捉えるとともに、感情は生命の本能ではなく,教育された習慣であり,この無意識的な習慣に政治経済が操作を加えることで管理が可能になる点を,各自理解し、社会に出るきっかけを少しでも掴んでもらいたい。


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