2016年度工学院大学 第1部応用化学科

化学技術者の倫理(Ethics for Chemical Engineers)[5B07]

試験情報を見る] [授業を振り返ってのコメント(学内限定)

2単位
和泉 良人 非常勤講師  
最終更新日 : 2016/10/27

<授業のねらい>
化学物質は、人々の生活を豊かにすると共に、予測し得なかった事故や公害問題などの社会的影響を与えることがある。化学物質の製造・使用・廃棄の際には、人の健康や生態系への悪影響が考えられ、化学技術者は、新規技術の開発とその実用化と共に開発技術が社会に危害をもたらさないために、危険性を予測し適切に対応することが求められる。これらの問題は、今までの知見ではこのような問題が発生することを認識できなかったことに主たる原因があると考えられるが、これらの事象を糧として今後化学技術者が製品を開発・実用化する上でどのようなことを考慮に入れるべきかについて、「安全化学」を実践することが重要となる。

一方、近年データの改ざんなど「倫理」を問われるような不祥事が目に付く。そのため講義では、社会問題となった事象を解析することで、倫理に基づく行動規範がなぜ取られなかったのかその阻害要因を考察し、これらを排除する仕組みの構築について理解する。さらに、化学物質事故や環境汚染による大きな社会的影響を未然に防止するための管理手法や、「化学技術者の倫理」が問われるような事象の発生を防止するための対策を考える。

特に、多くの化学技術者は組織に属しているため、組織の方針に縛られ、「技術者としてのジレンマ」を感じることがある。その際に、どのように行動するかを、実際の事例を通して考え、阻害要因として組織や心理学的な要因、個人としての判断能力の限界について理解する。また、これらを排除する仕組みについて、化学物質のリスク評価手法やリスクマネジメント手法、プロセスのリスクを評価し事前の対策を取る手法やリスク情報を伝達するリスクコミュニケーション等について修得する。参考とする事例は、化学技術者に関連した「大企業による公害規制違反とデータの改ざん」や「協和香料化学事件」などのほか、最近報道されたデータの改ざん例も予定している。

さらに、国際的な環境政策を理解する上で、1992年の地球環境サミットで「持続可能な発展」のために化学物質管理の必要性が提唱された以降、現在および今後実施される化学物質管理の国際動向や我が国の管理手法や、国連環境計画(UNEP)が2001年に地球規模の水銀汚染に係る活動を開始し、2013年に合意した「水銀に関する水俣条約」などについても学ぶ。

<受講にあたっての前提条件>
現実の社会の中で起こった事故や事件の報道の中で、経営者や担当した技術者がとった行動に対して関心を持つこと。

<具体的な到達目標>
1) 化学技術者の社会的責任を自覚し、「化学技術者の倫理」の基礎的考え方を理解したうえで、過去の事例を参考に、自らが考えて判断し行動するための手法を修得する。
2) 化学物質のハザードを理解し、適切な危機管理をする手法について学び実践できるようにする。
3) 安全で安心な社会を構築するため、化学技術者がなすべき行動について考える能力を養成する。

<授業計画及び準備学習>
授業の方法と準備学習

1)講義は、原則ペーパレスとし、講義テキストをプロジェクターで投影しながら行う。講義に使用する電子ファイルは、事前に共通システム(キューポート)にアップロードするので、準備学習(予習、復習)ができる。
2) 講義中のディスカッションなどを通して意見の多様性について理解し、最終的には自分で判断することの必要性を体験する。
3)質問は授業終了後も対応する。

授業計画(スケジュール)
1) 化学技術者倫理とは
本講座で学ぶ内容の目的の理解や動機付けを行う
2) 化学物質のハザードとリスクとは
化学物質のリスクとは、ハザードとばく露量によって決まることの説明。特に種々ある化学物質のハザードについて説明する。また化学物質のリスク評価とは、安全性を判断する基準値とばく露量の比較で決まることを学ぶ。
3) 化学物質のハザード情報の伝達
化学物質の有するハザード情報の伝達方法について学ぶ。
4) リスクマネジメント及びハゾップとは
リスクマネジメント手法の概論と、現在リスクの予知手段として採用されているハゾップについて説明する。
5) リスクコミュニケーション概論
予測されるリスクについてお互いに理解し合うリスクコミュニケーションが大事であるとされている。リスクコミュニケーションとは何か、リスクコミュニケーションを実施するときの注意点などを説明する。
6) 予防原則とは
欧米で「予防原則」と「予防的措置」の言葉の用い方についての議論がある。議論の論点と我が国の政府が採用する「予防的措置」の意味について説明する。
7) 国際的な化学物質管理
2020年までに「化学物質の製造と使用による人の健康と環境への悪影響の最小化」を目標に国際的に実施されている化学物質管理について説明する。
8) 我が国の化学物質管理
我が国の化学物質管理のための法制度と、2020年の目標に向けて基本となる法律(化審法)の改正などが実施されている。今後の化学物質管理の法制度のあり方など議論する。
9) 危機管理の判断力
危機発生時には、短時間で適切な行動判断能力が求められる。限られた情報の中で正解はないが、多様な解決策が存在することをゲーム形式で学ぶ。また行動を決定するための合理的手法について説明し、危機発生時の適切な行動判断とは何かを学ぶ。
10) 事例1(JCO臨界事故)
JCOの臨界事故を例に、製造工程の変更のあり方について討議する。
11) 事例2(協和香料化学事件)
法律で許可されていない物質を食品添加物として使用したケースで、物質の本質的安全性と、法的な規制のあり方について討議する。
12) 事例3(大企業による公害規制違反とデータの改ざん)
JFEの事例を解析し、なぜ組織として排水中の化学物質の濃度データを改ざんしたのか討議する。
13) 組織と心理学
各種の事故は、個人の精神的な問題として処理されるケースが多いが、実際に事故を防止するには、組織的な対応が求められる。なぜこのような判断をしてしまうのか、心理学的な観点から陥りやすい行動について説明する。
14) 学習のふりかえり

<成績評価方法>
1) 全講義の7割出席をもって成績評価の対象とする(正当な理由で講義を遅刻・欠席した場合は、速やかにその旨を報告すること)。
2) 成績は、講義中の小テスト(4割)と期末テスト(6割)をもって総合的に評価する。

<教科書>
指定教科書なし
ただし、講義用テキストの電子ファイルは共通システム(キューポート)にアップロードする

<参考書>
中村収三 (社)近畿化学協会 編著 技術者による「実践的工学倫理」 (化学同人)
中村昌允 「技術者倫理とリスクマネジメント」 (オーム社)」
中西準子  「環境リスク学」不安の海の羅針盤 (日本評論社)
製品評価技術基盤機構 「やさしい化学物質のリスク評価」 (化学工業日報社)
大歳幸男  「事業者のためのリスクコミュニケーションハンドブック」 (化学工業日報社)
ジェームズ・R・チャイルズ 「最悪の事故が起こるまで人は何をしていたのか」 (草思社)
社団法人日本技術士会 「科学技術者の倫理-その考え方と事例-」(丸善)
米国NSPE倫理審査委員会編 「科学技術者倫理の事例と考察」(丸善)
大竹千代子 「予防原則」 (合同出版)

<オフィスアワー>
勤務先電子メール:yoshito-izumi@jcassoc.or.jp (特に、時間帯の指定はない)

<学生へのメッセージ>
企業が求める「化学技術者が有すべき知識」とは何かをわかりやすく講義します。また企業が持続可能な発展をして行くために必要な「化学技術者の行動能力」について、過去の事例を解析しながら自らが考え解決する方法を学ぶことができます。
また企業が社員を採用する際に重要視する「主体性」、「コミュニケーション能力」および「実行力」とは何かについても講義します。
企業が求める「化学技術者が有すべき知識」とは何かをわかりやすく講義します。また企業が持続可能な発展をして行くために必要な「化学技術者の行動能力」について、過去の事例を解析しながら自らが考え解決する方法を学ぶことができます。
また企業が社員を採用する際に重要視する「主体性」、「コミュニケーション能力」および「実行力」とは何かについても講義します。


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