2016年度工学院大学 第1部応用化学科
医薬品開発(Development of Medicine)[4P23]
2単位 溝上 一敏 非常勤講師
- <授業のねらい>
- 一つの医薬品を開発するには、少なくとも10年間という長い年月や莫大な費用がかかる。そのため、医薬品開発を手掛けるにあたっては、まず@対象疾患に関する科学情報や特許等の関連する知的財産調査、次いでA開発時点に於ける類似品の有無の推測のみならず、B疾患治療の満足度の予測という、先見性と長期展望が必要である。そこでは、薬学、有機化学、医学といった理系の学問のみならず、統計学、経済学、法学のような様々な学問領域が総合的に係わり合って医薬品開発を支えている。したがって、医薬品開発は領域横断的な総合的プロジェクトといっても過言ではない。このような課程を経て生まれ出た医薬品のタマゴは、うまく成長すれば、@実際にヒトに投与する臨床試験が行われ、Aそこで得られた試験結果を国の機関により精査後、B認可されてはじめて医薬品が誕生することになる。しかし、医薬品はヒトの生命と関連する故に、認可のハードルは高い。そのプロセスを概略すると次のようになる。
1.疾患・病態の医科学的な実験による解明や、これらに関する情報の収集 2.対象とする疾患と標的とする分子の設定(スクリーニング系の構築) 3.標的に作用する活性物質(リード化合物)の探索 4.誘導体合成によるリード化合物の効力の改良・改善と安全性の評価 5.活性物質の最適化と開発候補物質の選定 6.動物による安全性・薬理試験(前臨床試験) 7.ヒトに対する治験(臨床試験) 8.審査機関への申請 現在注目を集めているiPS細胞による再生医療も、勿論、ヒトを対象とした臨床試験というプロセスを経て、国の公的機関による精査後、認可されてはじめて多くの患者にその医療を提供することができる。このような開発現場で起こっていることや考えられていることに触れることにより、医薬品開発の面白さや困難さと、そこに携わる者に何が求められているかを学ぶ。
- <受講にあたっての前提条件>
- 医薬や医療に関心を持っていることが大前提。
医薬品開発は応用化学とは関連深い。故に、その分野を専攻する学生が本講義を受講し理解するには、今までに応用化学の授業で学んだ化学・生化学的な知識を有することも条件に挙げられる。
- <具体的な到達目標>
- 以下に具体的な達成目標を示す。
1.医薬品の対象とする疾患や標的を選ぶ際に、考慮するべきことを理解する。 2.創薬研究の段階的な進め方と、各段階で考慮すべきことと、リード化合物の選抜およびその最適化の過程を把握する。 3.製剤化と前臨床試験(動物)を理解する。 4.開発研究(臨床試験)と承認申請のアウトラインを理解する。 5.医薬品の品質とその安全性がどのようにして保障されているかを学ぶ。
- <授業計画及び準備学習>
- 授業計画
授業は以下の順序で試験を含めて計14回実施する。尚、11月3日は休講。12月22日を代替日とする。 I.医薬品とは まず医薬品の定義と、製薬企業と製造販売許認可当局(厚労省)との関係、企業における医薬品開発テーマ設定の重要性について2回の講義で学ぶ。 1.医薬品の定義と日本の医薬品産業 2.現代の疾患と将来予測 3.医薬品研究開発のプロセス 1)医薬品の基本的性格 2)探索研究段階―研究テーマの設定の重要性 II.医薬品開発の方法 医薬品開発は、以下の順に沿って展開される。これらの内容について7回講義し医薬品開発の方法を学習する。 1.探索研究(創薬研究)(リード化合物を創出する方法) 1)現在汎用されているスクリーニング法 (1)評価系の構築 (2)スクリーニング系(評価系) i)高速スクリーニング(High―Throughput Screening:HTS) ii)in Silico Screening (3)スクリーニング系に提供する化合物 (4)ファーマコフォアと構造活性相関 (5)化合物ライブラリ(設計と構築) (6)リード化合物の選抜と化学変換 (7)リード化合物の選抜と最適化研究、候補化合物の選定 2)従来型のスクリーニング法 (1)既存薬の化学構造を基盤とする方法 (2)生物活性物質の構造を基盤とする方法 i)生理活性天然有機化合物 ii)生体内生理活性物質 2.前臨床研究(動物による薬効評価) 1)前臨床の薬理・薬効試験、毒性試験 2)薬物動態と製剤設計 3. 臨床研究段階(ヒトによる評価) 1)第I相臨床試験 2)第II相臨床試験 3)第III相臨床試験 4)ブリッジング試験 4.審査段階 1.流通・使用段階―市販後調査 2.副作用報告制度 3.再審査制度 4.再評価制度 III.開発の具体例 開発成功者による体験談 1.11月24日:タクロリムス(FK506)の開発(木野亨氏 ラクオリア製薬) 2.12月1日:発酵と医薬―エリスロポエチンの開発(山角健氏 元協和発酵キリン副社長) 3.12月8日:マクロライド系抗生物質・クラリスの開発(森本繁夫氏 元大正製薬研究所長) IV.12月15日:まとめと体験談の感想文作成(成績評価方法参照) V.12月22日:学習のふりかえり(筆記試験)
- <成績評価方法>
- 1.12月22日(木)(14回目の講義)に筆記試験を実施して成績を評価する。配布資料や参考書の持ち込みは不可。
医薬品の定義やその開発に関する留意事項などの一般的な内容と、その方法論などについて理解度を確かめる。 2.3名の先生方による医薬品開発の体験談(授業計画参照)の、それぞれについて感想文を12月15日(木)の講義の前半に書いて貰う。(配布資料の持ち込み可) これも評価の対象とする。この評価は試験と同程度とする。
- <教科書>
- 指定しない。
講義はパワーポイントを使用しておこなうが、重要と思われることは講義毎にプリントを作成し配布する。
- <参考書>
- 長野哲雄ら編著「創薬化学」(東京化学同人、2004年)、北泰行編著「創薬化学―有機合成からのアプローチ」(東京化学同人、2004年)
(特に購入の必要なし。) 医薬品開発の体験談を講義される3名の先生方には、多くの邦文の著書があり、その中にはインターネットで無料でダウンロードできるものもある。これらをよく読んで医薬品開発の理解度を高めて欲しい。
- <オフィスアワー>
- 授業終了後15分程度講義室前で行う。
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