2015年度工学院大学 学芸員課程科目

博物館資料保存論(Preserve Materials for Museum)[8022]

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2単位
米倉 立子 非常勤講師  
最終更新日 : 2016/01/21

<授業のねらい>
資料の保存は、博物館活動の根幹を担うものであるが、一般の来館者として博物館を見学するだけでは、なかなかその重要性や具体的な活動内容が見えづらい。本講義を通じて、資料保存とはどういう意義・機能があり、どのように行われているのかを項目ごとに学んでいく。
博物館における資料保存とその保存・展示・収蔵環境を科学的に捉え、公開と保存という矛盾する役割の中で資料を後世に良好な状態で伝えていくための基礎知識を学ぶことで、資料保存に対する意識を高め、館種、個別の状況に応じたより良い資料保存とは何かを考えていくための基礎的能力を養う。

<受講にあたっての前提条件>
学芸員課程に登録した学生を対象とする授業です。

<具体的な到達目標>
博物館で行わる資料保存の手法を学び、個別の状況に応じたより良い資料保存とは何かを考える基礎的能力を身に着ける。
博物館資料や文化財をめぐる問題に意識的になり、身近な問題、自分にも関係するテーマとして考える姿勢を身に着ける。

<授業計画及び準備学習>
1. イントロダクション ガイダンス、博物館における資料保存の目的と意義
2. 日本における文化財保護の歴史
3. 東日本大震災による文化財資料の被災状況や修復活動の紹介
4. 資料保存の諸条件とその影響(資料の劣化要因とその対策):温湿度と資料の展示・収蔵環境の関係 温湿度とカビ対策
5. 資料保存の諸条件とその影響(資料の劣化要因とその対策):照明(光)と資料の展示・収蔵環境の関係
6. 資料保存の諸条件とその影響(資料の劣化要因とその対策):振動、空気(室内汚染、大気汚染)と資料の展示・収蔵環境の関係 現代美術、現代の資料の保存について
7.科学的保存の技法と現状、IPM(総合的有害生物管理)文化財害虫・害獣の種類、資料の材質と食害の特質
8.資料の輸送過程と起こりうるリスク(衝撃・振動・温湿度)火災対策・地震対策・防犯対策
9.正倉院・土蔵・櫃・桐箱等による資料保存と曝涼・樹種の選定・防虫香等にみられる防虫意識
10.文化的景観や建造物、無形の文化財や慣習・芸能・技術などの保存と活用 レプリカ、伊勢神宮
11.文化財に対する科学的調査・分析(X線、赤外線等)と保存対策のバランス 埋蔵文化財の保存・修復
12.日本における伝統的な修復のあり方 日本美術、紙資料の修復 仏像修復
13.油彩画の修復、コンディション・レポートの例、資料の状態ディスクリプション(用語統一の問題)
14.生物多様性・種の保存に対する博物館園の活動 人間の活動と自然系資料(生物)の保存・保護
15.資料に求められるこれからの「保存」とは

準備学習:
・学芸員課程で博物館として扱う多様な館園(人文系・自然系・総合博物館、美術館、科学館、動物園、水族館、植物園など)をできるだけ事前に見学しておくこと。
・また、同ジャンルの館園であっても主に扱う資料(作品・展示されている生物)によって、また立地条件や館の規模によって、どのように資料の展示方法や扱い方が異なったり、共通したりする点があるのか留意し、キャプションを参照してその材質(生態)と置かれた環境(展示スペースの状況)を観察すること。
・日頃から博物館や文化財保存、生物多様性・種の保存などに関する新聞記事やニュースに注意を払い、その内容に対してどのように考えるか、自分なりの意見を持つ癖をつけておくこと−授業時のディスカッションや小レポートにその成果が反映するでしょう。

<成績評価方法>
授業時に文化財や博物館に関する時事問題を取り上げますので、それに対する自身の意見を小レポートとして翌日までにまとめてくる機会を複数回作ります。またこの小レポートに基づいて、同テーマについて受講者同士のディスカッションを行う予定です。ディスカッションへの積極的な参加態度が求められます。(40パーセント)
授業後のリアクションペーパー(30パーセント)
授業時に行う小テスト(30パーセント)により総合的に評価します。

<教科書>
指定教科書なし。授業時に随時資料を配布します。

<参考書>
神庭信幸著『博物館資料の臨床保存学』、武蔵野美術大学出版局、2014年。石崎武志編著『博物館資料保存論』、講談社、2012年。国立文化財機構東京文化財研究所編著『文化財の保存環境』、中央公論美術出版、2011年。日高真吾、園田直子編集『博物館への挑戦 何がどこまでできたのか』、三好企画、2008年。君塚仁彦・名児耶明編著『現代に活きる博物館』、有斐閣ブックス、2012年。国末憲人著『ユネスコ「無形文化遺産」生きている遺産を歩く』、平凡社、2012年。古市憲寿著『誰も戦争を教えてくれなかった』、講談社、2013年。阿部浩一編著『ふくしま再生と歴史・文化遺産』、山川出版社、2013年。
(財)日本博物館協会編、雑誌『博物館研究』2011年7月号、特集「資料保存の実践」;9月号、特集「東日本大震災における博物館の対応」
文化庁文化財部監修、雑誌『月刊文化財』、平成23年4月号「文化財と博物館」など、博物館・文化財等についての記事。

<オフィスアワー>
授業前後の時間帯(講師控室、または教室にて)

<学生へのメッセージ>
普段から多様な博物館園や史跡などを見学するように心がけ、その館園・史跡の立地条件や主な展示資料の特徴、展示環境の様子を掴むように努めてください。
博物館や文化財、歴史と記憶をつなぐモノ、生物多様性などをめぐる時事問題に関心を持つ癖をつけてください。

<備 考>
授業時に博物館園を実際に受講者全員で訪れる機会を作る可能性もあるので、授業時のアナウンスに注意してください。

<参考ホームページアドレス>
文化庁HP http://www.bunka.go.jp/bunkazai/index.html 環境省自然環境・生物多様性 http://www.env.go.jp/nature/


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