2014年度工学院大学 グローバルエンジニアリング学部機械創造工学科
△作家とその世界(Works of Literary Giants)[1313]
2単位 永野 宏志 非常勤講師
- <学位授与の方針>
○ | 1. 基礎知識の習得 | ○ | 2. 専門分野知識の習得 | ○ | 3. 汎用的問題解決技能 | ◎ | 4. 道徳的態度と社会性 | ○ | 5. 創成能力 |
- <授業のねらい>
- 違和感、不安、恐怖、パニック・・・安定状態から離脱すると生じるこれらの感覚や事態を、パニック小説を題材として、管理社会が強化され個々の生活が不安定さを増す現代の生について考察する。
今世紀になって、天災や人災は毎年のように地球規模で発生するようになった。近年の大災害がグローバル経済による環境破壊と気象変動に大きく関わっているからである。一方で、国家や経済は人々を個人に分断し、集団を組んだり、協働させないようにしているのも確かだ。移動時間もスマホやゲーム機に集中し、隣の人を風景として捉えてしまう我々は、大災害になると弱さを露呈してしまう。それゆえ、我々は個々に分断されたまま、集団を作り危機を乗り切る知恵を奪われて、頻発する大災害の中に放り込まれ続けるのである。 この講義のテーマは、複数の集団的無意識が作る恐怖、つまりパニックである。人間が中心になった近代世界にその外に位置する自然災害、戦争、犯罪、病気等が襲う恐怖の表象(キャラクターの作られ方)と破壊のパターン(パニックの作られ方)を、19世紀から21世紀における小説、映画から各テーマごとに検討し、1973年の経済危機にヒットした小松左京『日本沈没』から始めて、3.11後に至る大災害とフィクションとの関係を考える予定である。
- <受講にあたっての前提条件>
- 3.11時点の自分自身の対処の仕方やその後の国家、企業、メディアの対応を単に非難するのではなく、分析し考えを述べる準備をしておくこと。
- <具体的な到達目標>
- キャラクターに満ちたこの現実が不安と恐怖を与えながら、実際の危機に対処できるかどうかという点を、フィクションのほうから逆に捉え直す能力を身につけることが目標である。
- <授業計画及び準備学習>
- 第1回 イントロダンション・・・恐怖が作り出すキャラクターと近代のサンプル
準備学習:ゴジラと河童がなぜあのキャラクターになったのか考えておくこと 第2回 不安、恐怖、パニックの区別・・・キャラクター化できるものとできないもの 準備学習:前回の復習 第3回 パニックの表象1・・・地震 準備学習:前回の復習 第4回 パニックの表象2・・・津波 準備学習:前回の復習 第5回 パニックの表象3・・・火災 準備学習:前回の復習 第6回 パニックの表象4・・・細菌感染 準備学習:前回の復習 第7回 パニックの表象5・・・放射能汚染 準備学習:前回の復習 第8回 パニックの表象6・・・情報操作 準備学習:前回の復習 第9回 パニックの作られ方1・・・建物または辺境 準備学習:これまで自分が見たパニック小説、映画のリストを作っておくこと 第10回 パニックの作られ方2・・・都市または移動空間 準備学習:前回の復習 第11回 パニックの作られ方3・・・地球規模の時空 準備学習:前回の復習 第12回 パニックの作られ方4・・・宇宙空間(SF小説) 準備学習:前回の復習 第13回 『日本沈没』と3.11以後1・・・キャラクター化できないもの(感染と放射能) 準備学習:前回の復習 第14回 『日本沈没』と3.11以後2・・・キャラクター化できないものの中でどう暮らすか 準備学習:前回の復習 第15回 教場試験・・・自作の最新パニック小説を書く 準備学習:下書き等の用意をしておくこと
- <成績評価方法及び水準>
- 毎回講義後半の10分程度その回のテーマに即した課題をその場で記述して平常点(30点)とし、さらに、期末試験を実施し(70点)、両者併せて総合的に評価する。また、私語、居眠りのたぐいはその場で単位なしとみなし、退席してもらう。
- <教科書>
- 小松左京『日本沈没』(上・下 小学館)
- <参考書>
- 小松左京・谷甲州『日本沈没 第二部』(上・下 小学館)、鷲巣義明『恐怖の映画術』(キネマ旬報社)、トマス・ホッブズ『リヴァイアサン』(中公クラシックス)、ジョルジュ・バタイユ『内的体験』(平凡社ライブラリー)、柳田國男『妖怪談義』(講談社学術文庫)、トム・ギル他『東日本大震災の人類学: 津波、原発事故と被災者たちの「その後」』(人文書院)
- <オフィスアワー>
- 教員室にて、講義の前後10分程度
- <学生へのメッセージ>
- メディア的な虚構が現実のフリをして包囲している中で生きる自分を自覚し、大災害がそれを取り払う時、パニックにどう対処するかを、気象変動の激化する今、考えてもらいたい。
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