2014年度工学院大学 第1部応用化学科

化学技術者倫理(Ethics for Chemical Engineers)[5A09]

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1単位
和泉 良人 非常勤講師  
最終更新日 : 2015/02/13

<授業のねらい>
化学物質は、人々の生活を豊かにすると共に、予測し得なかった事故や公害問題などの社会的影響を与えることがある。化学物質の製造・使用・廃棄の際には、人の健康や生態系への悪影響が考えられ、化学技術者はこれらの危険性を理解し適切に対応することが求められている。
これらの問題は、今までの知見ではこのような問題が発生することを認識できなかったことに主たる原因があると考えられるが、これらの事象を糧として今後化学技術者が製品を開発・製造する上でどのようなことを考慮に入れるべきか形式知化し、「安全化学」を実践することが重要である。
また近年データの改ざんなど「化学技術者の倫理」を問われるような不祥事が目に付く。そのため講義では、社会問題となった事象を解析することで、倫理に基づく行動規範がなぜ取られなかったのかその阻害要因を明らかにし、阻害要因を排除する仕組みの構築について議論することを主体としたい。また化学物質事故や環境汚染による大きな社会的影響を未然に防止するための管理手法についても学び、「化学技術者の倫理」が問われるような事象が発生することを防止することを目的とする。
参考にする事例としては、化学技術者に関連した事例として「大企業による公害規制違反とデータの改ざん」や「協和香料化学事件」」に、最近話題となった類似の事件などを加えることを予定している。
講義から得られる成果としては、阻害要因として組織や心理学的な要因、個人としての判断能力の限界について理解し、また阻害要因を排除する仕組みについては、化学物質のリスク評価手法とリスクマネジメント手法、プロセスのリスクを評価し事前の対策を取る手法であるハゾップ(HAZOP: Hazard and Operability Study)やリスクについて情報伝達するリスクコミュニケーション等について修得する。
1992年の地球環境サミットで「持続可能な開発」のために化学物質管理の必要性が提唱され、それを受けて現在および今後実施される化学物質管理の国際動向や我が国の管理手法や、国連環境計画(UNEP)は、2001年に地球規模の水銀汚染に係る活動を開始し、昨年、水銀および水銀を使用した製品の製造と輸出入を規制する「水銀に関する水俣条約」などについても学ぶ。

<受講にあたっての前提条件>
講義テキストを電子ファイルで提供するので、インターネット環境を整備することが望ましい。

<具体的な到達目標>
1) 化学物質のハザードを理解し、ハザードに起因するリスクを管理する手法について学び実践できるようにする。
2) 適切な危機管理が可能となるよう、過去の事例を参考に、自らが考えて判断し行動するための手法を修得する。
3) 安全で安心な社会を構築するため、化学技術者がなすべき行動について考える能力を養成する。

<授業計画及び準備学習>
授業の方法:
1) 講義は、原則ペーパレスとし、講義テキストをプロジェクターで投影しながら行う。講義に使用する電子ファイ
ルは、適時、共通システム(キューポート)にアップロードするので、事前に準備学習ができる。
2)座学ばかりでなく、ディスカッションなど討議を行うことで意見の多様性について理解し、必ずしも正解はなく
 最終的には自分で判断することの必要性について学ぶ。
3)質問があれば、授業終了後であっても対応する。

授業展開(スケジュール)
1) 化学技術者の倫理とは
本講座で学ぶ内容の目的の理解や動機付けを行う
2) 危機管理の判断力
危機発生時には、短時間で適切な行動判断能力が求められる。限られた情報の中で正解はないが、多様な解決策が存在することをゲーム形式で学ぶ。また行動を決定するための合理的手法について説明し、危機発生時の適切な行動判断とは何かを学ぶ。
3) 事例1(JCO臨界事故)
JCOの臨界事故を例に、製造工程の変更のあり方について討議する。
4) 事例2(協和香料化学事件)
法律で許可されていない物質を食品添加物として使用したケースで、物質の本質的安全性と、法的な規制のあり方について討議する。
5) 事例3(大企業による公害規制違反とデータの改ざん)
JFEの事例を解析し、なぜ組織として排水中の化学物質の濃度データを改ざんしたのか討議する。
6) 組織と心理学
各種の事故は、個人の精神的な問題として処理されるケースが多いが、実際に事故を防止するには、組織的な対応が求められる。なぜこのような判断をしてしまうのか、心理学的な観点から陥りやすい行動について説明する。
7) PL法と化学企業の自主的な取組
我が国のPL法の解説および日本レスポンシブル・ケア協議会の活動について説明する。

<成績評価方法及び水準>
1.全講義の7割以上の出席者を成績評価の対象とするので、正当な理由で講義を遅刻・欠席した場合は、後日その旨を報告すること。
2.成績評価は、講義の小レポート(4割)と期末試験(6割)をもって評価する。

<教科書>
指定教科書はないが、使用する講義テキストを共通システム(キューポート)にアップロードする。

<参考書>
中村収三 (社)近畿化学協会 編著 技術者による「実践的工学倫理」 (化学同人)
中村昌允 「事故から学ぶ技術者倫理」 (工業調査会)
谷垣昌敬 「技術者倫理入門」 (オーム社)
堀田源治 「工学倫理」 (工学図書株式会社)
ジェームズ・R・チャイルズ 「最悪の事故が起こるまで人は何をしていたのか」 (草思社)
社団法人日本技術士会 「科学技術者の倫理ーその考え方と事例ー」(丸善)
米国NSPE倫理審査委員会編 「科学技術者倫理の事例と考察」(丸善)
大竹千代子 「予防原則」 (合同出版)
ロバート・B・チャルディーニ 「影響力の武器」  (誠信書房)

<オフィスアワー>
連絡先:yoshito-izumi@jcassoc.or.jp

<学生へのメッセージ>
企業が求める「化学技術者が有すべき知識」とは何かをわかりやすく講義します。また企業が持続可能な発展をして行くために必要な「化学技術者の行動能力」について、過去の事例を解析しながら自らが考え解決する方法を学ぶことができます。
また企業が社員を採用する際に重要視する「主体性」、「コミュニケーション能力」および「実行力」とは何かについても講義します。


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