2014年度工学院大学 第1部応用化学科

医薬品開発(Development of Medicine)[4E17]

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2単位
溝上 一敏 非常勤講師  
最終更新日 : 2015/02/13

<授業のねらい>
一つの医薬品を開発するには、少なくとも10年間という長い年月や莫大な費用がかかる。そのため、医薬品開発には、1)特許等の関連する知的財産調査、2)開発時点に於ける類似のものの有無の推測のみならず、3)疾患治療の満足度の予測という、先見性と長期展望が必要とされる。そこでは、薬学、有機化学、医学といった理系の学問のみならず、統計学、経済学、法学のような様々な学問領域が総合的に係わり合って医薬品開発を支えている。したがって、医薬品の開発は領域横断的な総合的プロジェクトである。このような課程を経て生まれ出た医薬品のタマゴは、うまく成長すれば、1)実際にヒトに投与する臨床試験が行われ、2)そこで得られた試験結果を国の機関により精査後、3)認可されてはじめて医薬品が誕生することになる。しかし、医薬品はヒトの生命と関連する故に、認可のハードルは高い。そのプロセスを概略すると次のようになる。
1.疾患・病態の医科学的な実験による解明や、これらに関する情報の収集
2.対象とする疾患と標的とする分子の設定
3.標的に作用する活性物質(リード化合物)の探索
4.誘導体合成によるリード化合物の効力の改良と安全性の評価
5.活性物質の最適化と開発候補物質の選定
6.動物による安全性・薬理試験(前臨床試験)
7.ヒトに対する治験(臨床試験)
尚、現在注目を集めているiPS細胞やSTAP細胞による再生医療も、勿論、ヒトを対象とした臨床試験というプロセスを経て、国の公的機関による精査後、認可されてはじめて患者に提供することができる。このような開発現場で起こっていることや考えられていることに触れることにより、医薬品開発の面白さや困難さと、そこに携わる者に何が求められているかを学ぶ。

<受講にあたっての前提条件>
医薬品開発は応用化学とは関連深い。故に、その分野を専攻する学生が本講義を受講するには、今までに応用化学の授業で学んだ化学・生化学的な知識を有することを前提とする。

<具体的な到達目標>
以下に具体的な達成目標を示す。
1.医薬品の対象とする疾患や標的を選ぶ際に、考慮するべきことを理解する。
2.創薬研究の段階的な進め方と、各段階で考慮すべきことと、リード化合物の選抜およびその最適化の過程を把握する。
3.製剤化と前臨床試験(動物)を理解する。
4.開発研究(臨床試験)と承認申請のアウトラインを理解する。
5.医薬品の品質とその安全性がどのようにして保障されているかを学ぶ。

<授業計画及び準備学習>
授業は以下の順序で実施する。
I.医薬品とは
1.医薬品の定義と日本の医薬品産業
2.現代の疾患と将来予測
3.医薬品研究開発のプロセス
 1)医薬品の基本的性格
 2)探索研究段階―研究テーマの設定の重要性
II.探索研究(創薬研究)段階(リード化合物を創出する方法)
1.新規活性物質のスクリーニング法
1)評価系の構築 
2)スクリーニング系(評価系)
 (1)高速スクリーニング(High―Throughput Screening:HTS)
 (2)in Silico Screening
3)スクリーニングに提供する化合物
4)構造活性相関とファーマコフォア
5)化合物ライブラリ(設計と構築)
6)リード化合物の選抜と化学変換
7)リード化合物の選抜と最適化研究、候補化合物の選定
2.従来型の探索法
1)既存薬の化学構造を基盤とする方法
2)生物活性物質の構造を基盤とする方法
(1)生理活性天然有機化合物
(2)生体内生理活性物質
III.開発研究段階(動物による薬効評価)
1.前臨床の薬理・薬効試験、毒性試験
2.薬物動態と製剤設計
IV. 臨床研究段階(ヒトに投与して評価)
1.第I相臨床試験
2.第II相臨床試験
3.第III相臨床試験
4.ブリッジング試験
V.審査段階
1.流通・使用段階―市販後調査
2.副作用報告制度
3.再審査制度
4.再評価制度
VI.開発の具体例
開発成功者による体験談
1.11月20日:マクロライド系抗生物質・クラリスの開発(大正製薬監査役 森本繁夫氏)
2.11月27日:高脂血症治療薬の開発研究(元第一三共常務執行役員 理研 丹沢和比古氏)
3.12月4日:発酵と医薬―バイオ医薬品の開発(元協和発酵キリン副社長 山角健氏)
VIII.その他
抗体医薬などの生物製剤や個の医療についても若干ふれる。
疾患メカニズムの解明や新しい治療法の開発などに関する新聞報道は、できるだけ読んで欲しい。一般的にこれらの報道は、特に知識がなくても理解できるように書かれている。これらを読むことは、医薬品開発をより理解することができ、また医薬に関する知識を深化することができると思われる。

<成績評価方法及び水準>
1.12月18日(木)(14回目の講義)に筆記試験を実施して成績を評価する。配布資料や参考書の持ち込みは不可。
医薬品の定義やその開発に関する留意事項などの一般的な内容と、その方法論などについて理解度を確かめる。
2.3名の先生方による医薬品開発の体験談(授業計画参照)について、それぞれについて感想文を12月11日(木)の講義の前半に書いて貰う。(配布資料の持ち込み可)
これも評価の対象とする。この評価はかなり比重を高くするつもりである。

<教科書>
指定教科書なし。
講義はパワーポイントを使用しておこなうが、重要と思われることは講義毎にプリントを作成し配布する。これらの配布資料を教科書に代わるものとする。

<参考書>
長野哲雄ら編著「創薬化学」(東京化学同人、2004年)、北泰行編著「創薬化学―有機合成からのアプローチ」(東京化学同人、2004年)
(特に購入の必要なし。)

<オフィスアワー>
授業終了後15分程度講義室前で行う。

<学生へのメッセージ>
講義は主にパワーポイントを使用しておこなうが、重要と思われることはプリントを作成し配布する。但し、細かいことはプリントには記載されていない。従って、自分で工夫してノートをとること。この作業によって論理性が培われ脳も活性化される。これは、どの講義についても共通している。
医薬品開発の実際に関する3名の先生方の体験談は、成功の裏には失敗ありで含蓄に富んでいる。また医薬品業界がどのような人材を求めているか若干触れる予定である。このような話は学生諸君に資するものと考えられ、是非参考にしていただきたい。これらの講義はあらゆる層の学生にオープンする。


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