2014年度工学院大学 第1部機械システム工学科

複雑系の科学(Science of Complex System)[6201]

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2単位
伊藤 慎一郎 教授  [ 教員業績  JP  EN ]
飯田 明由 非常勤講師  
最終更新日 : 2015/02/13

<学位授与の方針>
1. 基礎知識の習得
2. 専門分野知識の習得
3. 汎用的問題解決技能
4. 道徳的態度と社会性
5. 創成能力

<授業のねらい>
工学的な問題は,多くの要素や機能が組み合わされたシステムによって構築されている.従来の工学では,複雑なシステムの振る舞いを個々の要素の組み合わせによって分析することが主流であり,工学教育も個々の要素の振る舞いを学ぶことに主眼を置いている.一方,さまざまな要素から成るシステムでは、部分が全体に、全体が部分に影響しあって複雑に振る舞うことがあり,従来の要素還元による分析では捉えることが困難なことがわかってきた.このような系を複雑系という.複雑系では,従来の統計理論のみならず,カオス・フラクタルなどの新概念やコンピューター・テクノロージを利用し,単に工学や物理学の問題だけでなく、生命・気象・経済などの広い範囲の問題の本質を捉えることを試みる.
学生諸君が高校までに習ってきた数学や物理では“答え”があることが前提となっているが,この講義では,そもそも答えがあるかどうかもわからない,あるいは答えは幾通りにも存在する複雑な系の振る舞いについて学習する.複雑なシステムや不安定な系の実例を示しながら解説する.学生自らが複雑系システムの不思議な振る舞いをコンピュータ・シミュレーションを用いて体験することにより,工学の諸問題を自分で考える習慣を身に着ける訓練を行う.
具体的な目標を示す。
(1) 非線形問題における解の不安定性と物理現象との関係について理解する.
(2) カオスとフラクタル:微分方程式の振る舞いをコンピュータで調べる方法を身につける.
(3) 生命・経済・歴史・力学系を記述する複雑系の基礎を学ぶ.
(4) 天気予報や株価予測に用いられている予測理論,データ処理方法について学ぶ
(前提となる基礎知識と習得後の展開)
本科目を履修するには、高校レベルの数学及び物理学の知識を持っていることを前提とする.本科目を習得することにより,各専門科目における安定性問題や統計問題について考察することができるようになり,また,データ処理やコンピュータによる問題分析方法の基礎を学ぶことができる.

<受講にあたっての前提条件>
数値演習のためエクセルが使えること

<具体的な到達目標>
複雑系を構成する次元を理解し,算出できること
フラクタルが理解できること

<授業計画及び準備学習>
1. [ガイダンス] 複雑系と非線形システム
天体の運行や高校物理で習う落体の運動は答えがいつでも正しく,方程式を解くことで、いつも確定した解が得られる。しかし、非線形の微分方程式では初期条件がわずかに異なるだけで,その解はまったく異なる振る舞いをすることがある.ヤカンの中の水が沸騰する場合,最初の気泡はどこからでるのか?河川の蛇行はどのような条件で決められていくのか,昆虫が爆発的に増えないのはなぜか?パチンコの玉の行方はなぜ同じようにならないのかなど,身近な問題の中にある複雑系について紹介する.
2.安定性問題と不安定性問題(コロンブスの卵)
重心位置が正確にわかっていれば,卵どころか,鉛筆(の削ってあるほうを下にしても)だって立てることができるはずである.同じ高さの山の頂上にあるボールと谷の底にあるボールの持つ位置エネルギーは等しいけれど,ボールがその状態を維持できるかどうかは,必ずしも同じではない.過冷却した水はほんの些細な刺激で一瞬にして凍りつく.安定と不安定について解説する.
3. 流体における不安定問題(カルマン渦と双子渦)
円柱の周りに風を流すと,上下非対称な渦が発生する.円柱は上下対象で,円柱の上流の流れも上下対象になるように工夫しても,円柱の後ろには上下非対称な渦ができてしまう.ある日,カルマンは上下非対称な渦こそ,安定であることを見出す.有名なカルマン渦発見のエピソードを交えながら,もんじゅにおける温度計破壊のメカニズム,新幹線のパンタグラフや自動車のドアミラーから発生する騒音と渦の関係を示す.
4. 非線形共振システム(タコマ橋とゼロ戦のフラッター)
重さ1tもある釣鐘を指一本で動かすことができるだろうか?昔,タコマ橋というつり橋が一瞬にして,崩れ落ちたのは何故か?ゼロ戦の翼が振動したのは何故か?富士山上空を飛行中のBOA機が突然墜落したのは何故かなど,共振による問題を解説する.
5. 食物連鎖と交通渋滞
ねずみは“鼠算”的に増殖するのに,世界中がねずみだらけにならないのは何故だろう?餌となる動物と捕食動物の関係はどのようなものだろうか?
皆が同じような速度で走っているはずの高速道路が渋滞するのは何故なのか?個々の運動はシステム全体にどのような影響を及ぼすのか,食物連鎖と交通渋滞について考える.
6. 株価の変動と歴史の推移の中の不安定性
株価の変化が予測できれば,大金持ちに……誰でも考えるが,なかなかうまくいかない.君が値上がりすると思っている株を買おうとすれば,市場では株価そのものが変化する.システムの動向は,システムを監視,利用する人々の動きに連動している.初期条件は,システムそのものに影響されているとしたら…株価の変動や王朝や政権の転覆などについて考える.
7. 天気予報はあたるか(リチャードソンの夢と微分不可能問題)
たくさんの人を集めて,世界中の各地における気象情報を計算したら,世界中の天気が予測できるだろうか?予測するための微分方程式はわかっているのだから,可能なはずだが..
天気予報は当たるだろうか?世界最速のコンピュータを使った天気予報と,微分方程式を解くということについて考える.
8. カオスとフラクタル
これまで紹介したような問題は決定論的な方程式で記述されているのにもかかわらず,ちょっとした初期条件の違いにより結果が大きくことなってしまう,いわゆる「バタフライ効果」問題である.どんな計測であってもわずかに誤差を含むので,初期条件に対して解の振る舞いが敏感な場合,将来の状態を予測することが難しく,現象は混沌(カオス)となる.
一方,海岸線を人工衛星から撮影した写真と飛行機から撮影した写真,灯台から撮影した写真は同一ではないけれど,全体としては同じような印象を与える.部分は全体のコピーであるような場合,微分を定義することはできるのか?
微分方程式を考える上で重要な2つの概念,カオスとフラクタルについて説明する.
9. 演習:ストレンジアトラクター
簡単な微分方程式をコンピュータで計算させ,その解の軌道を調べる.非線形方程式の中には非常に奇妙な軌道を示すものがある.カオスの代表例であるストレンジアトラクターを実際に計算させてみる.10. 演習:マンデルブロー集合マンデルブロー集合は雑誌等でも紹介されることが多い,非常に美しい絵であり,学生諸君もどこかで見たことがあるかと思います.このマンデルブロー集合をコンピュータを使って自分で作り,複雑な図形が非常に簡単な数式から作られていることを示す.
11. 目の起源
カンブリア紀における生物の爆発的な発展をもたらしたものは,進化の過程における目の発明であった.光が生物に与えた影響について考える.
12. スポーツの世界
ゴールキーバーを惑わすようなシュートはどのようにして生み出されるのか?プレイヤーの天性のひらめきによって生み出される芸術的なシュートに力学的なメスを入れる.実験によって物事を理解していく過程を学ぶ.
13. すっぽん泳法でオリンピックを目指す
生物の運動は合理的で美しい.進化の過程で無駄のない効率的な運動方法を生み出す生物.生物の運動を工学やスポーツに取り組む試みが多数行われている.水泳界の常識を生物の進化を学ぶことによって覆す.
14. 生物の飛翔・泳法
蝶やトンボのように飛翔するロボット,アザラシのように深く深く潜るロボット,ペンギンのように効率的にすばやく泳ぐロボット.簡単にできそうでなかなかできない.環境に適応した生物の運動から新しい工学的な技術を探る.

<成績評価方法及び水準>
レポート50%, 演習(コンピュータプログラム)30%,毎回の講義における質疑応答20%,総合得点100点満点で採点し,60点以上の者に単位を認める.

<教科書>
なし

<参考書>
自然の中に隠された数学 イアン スチュアート (著), Ian Stewart (原著), 吉永 良正 (翻訳) 草思社
複雑系」とは何か:吉永 良正 (著) 講談社現代新書

<オフィスアワー>
土曜日13:00-15:00
これ以外の時間帯の場合は,メールにて確認してから来てください.
ito@cc.kogakuin.ac.jp
iida@mech.tut.ac.jp

<学生へのメッセージ>
大学の講義は,学問の個々の要素について非常に精密な答えや論理だった考え方を示してくれる.しかし,それらが複雑に組み合わさった実社会における各種のシステムは,必ずしも個々の要素の集合によって記述されるわけではない.この講義を通じて,答えが明確に存在しないような問題についてじっくり考える習慣をつけてほしい.また,複雑な問題に対して,答えを自分で作り出すための訓練の場としてほしい.

<備 考>
この科目は電子教材がありますので,活用してください.

<参考ホームページアドレス>
http://fluid.mech.kogakuin.ac.jp/


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