| 2012年度工学院大学 第1部電気システム工学科
 
 △近代の文学(Modern Japanese Literature)[1312] 2単位
 永野 宏志 非常勤講師
 
 
 
<授業のねらい及び具体的な達成目標>
  違和感、不安、恐怖、パニック・・・安定状態から離脱すると生じるこれらの感覚や事態を、パニック小説を題材として、管理社会が強化され個々の生活が不安定さを増す現代の生について考察する。今日、メディアは現実を情報によって地球大に肥大させている。このサイバーな現実は、光の速度にモノの重さを持つ物流が追いつこうとしてシステム全体にアクシデントが生じ、日常を一気に崩壊させる危険を孕む。クリック一つで世界に繋がっているのにそれに追い付けない生きた身体は悲鳴をあげている。何事も先回りされ選択肢が与えられて、その中から選ぶのが自由であるかのように思いこまされるだけのこの閉塞感は、出口なしの世界をさまよう小説の登場人物たちに似ている。
 前期のテーマは、集団的無意識が作る恐怖、つまりパニックである。人間が中心になった近代世界にその外に位置する自然災害、戦争、犯罪、病気等が襲う恐怖の表象(キャラクターの作られ方)と破壊のパターン(パニックの作られ方)を、19世紀から20世紀における小説、映画から各テーマごとに検討し、特に小松左京『日本沈没』を中心に、キャラクターに満ちたこの現実が不安と恐怖を与えながら、実際の危機に対処できるかどうかという点を、フィクションのほうから逆に捉え直すことがこの講義の目標である。
 後期と相関しているが、単独で受講しても差し支えはない。なおテーマの性質上感情を左右するシーンを扱う場合もあるので、あらかじめご了承いただく。
 
<授業計画及び準備学習>
  第1回    イントロダンション・・・恐怖が作り出すキャラクターと近代のサンプル準備学習:ゴジラと河童がなぜあのキャラクターになったのか考えておくこと
 第2回    不安、恐怖、パニックの区別・・・キャラクター化できるものとできないもの
 準備学習:前回の復習
 第3回    パニックの表象1・・・地震
 準備学習:前回の復習
 第4回    パニックの表象2・・・津波
 準備学習:前回の復習
 第5回    パニックの表象3・・・火災
 準備学習:前回の復習
 第6回    パニックの表象4・・・細菌感染
 準備学習:前回の復習
 第7回    パニックの表象5・・・放射能汚染
 準備学習:前回の復習
 第8回    パニックの表象6・・・情報操作
 準備学習:前回の復習
 第9回    パニックの作られ方1・・・建物または辺境
 準備学習:これまで自分が見たパニック小説、映画のリストを作っておくこと
 第10回    パニックの作られ方2・・・都市または移動空間
 準備学習:前回の復習
 第11回     パニックの作られ方3・・・地球規模の時空
 準備学習:前回の復習
 第12回     パニックの作られ方4・・・宇宙空間(SF小説)
 準備学習:前回の復習
 第13回    『日本沈没』と3.11以後1・・・キャラクター化できないもの(感染と放射能)
 準備学習:前回の復習
 第14回    『日本沈没』と3.11以後2・・・キャラクター化できないものの中でどう暮らすか
 準備学習:前回の復習
 第15回   教場試験・・・自作の最新パニック小説を書く
 準備学習:下書き等の用意をしておくこと
 
<成績評価方法及び水準>
  毎回講義後半の10分程度その回のテーマに即した課題をその場で記述して平常点(50点)とし、さらに、期末試験を実施し(50点)、両者併せて総合的に評価する。また、私語、居眠りのたぐいは、大学にはいないと判断し、その場で単位なしとみなす。
<教科書>
  対象とする小説が複数であるので、必要な文献はプリントまたはDVD、ビデオなどでもそのつど提示する。
<参考書>
  鷲巣義明『恐怖の映画術』(キネマ旬報社)、『別冊太陽』日本恐怖映画特集、トマス・ホッブズ『リヴァイアサン』(中公クラシックス)、ジョルジュ・バタイユ『内的体験』(平凡社ライブラリー)、柳田國男『妖怪談義』(講談社学術文庫)
<オフィスアワー>
  教員室にて、講義の前後10分程度
<学生へのメッセージ>
  テーマの関係上、気分を左右する情報を提示する場合があるので、じゅうぶんの考慮の上で受講されたい。
<備考>
  登録の際、履修該当学科であっても、定員を超えた場合は抽選となる可能性がある。
   
 
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