| 2012年度工学院大学 第1部応用化学科
 
 ○化学技術者倫理(Ethics for Chemical Engineers)[5A09] 1単位
 大歳 幸男 非常勤講師
 
 
 
<授業のねらい及び具体的な達成目標>
  <授業のねらい及び具体的な達成目標>化学物質は、人々の生活を豊かにすると共に、予測し得なかった事故や公害問題などの社会的影響を与えることがある。化学物質の製造・使用・廃棄の際には、爆発事故、人の健康や生態系への悪影響が考えられ、化学技術者はこれらの危険性を理解し適切に対応することが求められている。
 これらの事故や問題は、今までの知見ではこのような問題が発生することを認識できなかったことに主たる原因があると考えられるが、これらの事象を糧として今後化学技術者が製品を開発・製造する上でどのようなことを考慮に入れるべきか形式知化し、「安全化学」を実践することが重要である。
 また近年データの改ざんなど「化学技術者の倫理」を問われるような不祥事が目に付く。そのため講義では、社会問題となった事象を解析することで、倫理に基づく行動規範がなぜ取られなかったのかその阻害要因を明らかにし、阻害要因を排除する仕組みの構築について議論することを主体としたい。また化学物質事故や環境汚染による大きな社会的影響を未然に防止するための管理手法についても学び、「化学技術者の倫理」が問われるような事象が発生することを防止することを目的とする。
 参考にする事例としては、昨年の東北大震災による東電福島第一原子力発電所の事故原因や対応、また化学技術者に関連した事例として「大企業による公害規制違反とデータの改ざん」や「協和香料化学事件」、「JCO臨界事故」などを予定している。
 講義から得られる成果としては、阻害要因として組織や心理学的な要因、個人としての判断能力の限界について理解し、また阻害要因を排除する仕組みについては、化学物質のリスク評価手法とリスクマネージメント手法、プロセスのリスクを評価し事前の対策を取る手法であるハゾップ(Hazard and Operability Study : HAZOP)やリスクについて情報伝達するリスクコミュニケーション等について修得する。
 また1992年の地球環境サミットで「持続可能な開発」のために化学物質管理の必要性が提唱され、それを受けて現在および今後実施される化学物質管理の国際動向や我が国の管理手法についても詳しく学ぶ。
 
 2.到達目標
 1)化学物質のハザードを理解し、ハザードに起因するリスクを管理する手法について学び実践できるようにする。
 2)適切な危機管理が可能となるよう、過去の事例を参考に、自らが考えて判断し行動するための手法を修得する。
 3)安全で安心な社会を構築するため、化学技術者がなすべき行動について考える能力を養成する。
 
<授業計画及び準備学習>
  ○授業の方法講義は、講義用テキスト(生協で販売)をプロジェクターで投影しながら行う。従って講義用テキストは必ず購入すること。
 座学ばかりでなく、グループディスカッションなど討議を行うことで意見の多様性について理解し、必ずしも正解はなく最終的には自分で判断することの必要性について学ぶ。
 ○授業展開(スケジュール)
 8)化学技術者の倫理とは
 本講座で学ぶ内容の目的の理解や動機付けを行う
 9)危機管理の判断力
 危機発生時には、短時間で適切な行動判断能力が求められる。限られた情報の中で正解はないが、多様な解決策が存在することをゲーム形式で学ぶ。また行動を決定するための合理的手法について説明し、危機発生時の適切な行動判断とは何かを学ぶ。
 10) 事例1(JCO臨界事故)
 JCOの臨界事故を例に、製造工程の変更のあり方について討議する。
 11) 事例2(協和香料化学事件)
 法律で許可されていない物質を食品添加物として使用したケースで、物質の本質的安全性と、法的な規制のあり方について討議する。
 12) 事例3(大企業による公害規制違反とデータの改ざん)
 JFEの事例を解析し、なぜ組織として排水中の化学物質の濃度データを改ざんしたのか討議する。
 13) 組織と心理学
 各種の事故は、個人の精神的な問題として処理されるケースが多いが、実際に事故を防止するには、組織的な対応が求められる。なぜこのような判断をしてしまうのか、心理学的な観点から陥りやすい行動について説明する。
 14) PL法と化学企業の自主的な取組
 我が国のPL法の解説および日本レスポンシブル・ケア協議会の活動について説明する。
 
<成績評価方法及び水準>
  1.全講義の7割以上の出席者の成績を評価する。2.成績評価は、毎回の小レポート(4割)と期末レポート(6割)
 
<教科書>
  講義用テキスト(生協で販売)
<参考書>
  中村収三 (社)近畿化学協会 編著技術者による「実践的工学倫理」 (化学同人)
 中村昌允 「事故から学ぶ技術者倫理」 (工業調査会)
 谷垣昌敬 「技術者倫理入門」 (オーム社)
 堀田源治 「工学倫理」 (工学図書株式会社)
 ジェームズ・R・チャイルズ 「最悪の事故が起こるまで人は何をしていたのか」 (草思社)
 社団法人日本技術士会 「科学技術者の倫理ーその考え方と事例ー」(丸善)
 米国NSPE倫理審査委員会編 「科学技術者倫理の事例と考察」(丸善)
 大竹千代子 「予防原則」 (合同出版)
 ロバート・B・チャルディーニ 「影響力の武器」  (誠信書房)
 
<オフィスアワー>
  授業終了後1時間程度質問に答える連絡先: otoshi@enics.co.jp
 
<学生へのメッセージ>
  企業が求める「化学技術者が有すべき知識」とは何か、わかりやすく講義します。また企業が持続可能な発展をして行くために必要な「化学技術者の行動能力」について、過去の事例を解析しながら自らが考え解決する方法を学ぶことができます。また企業が社員を採用する際に重要視する「主体性」、「コミュニケーション能力」および「実行力」とは何かについても講義します。
 
   
 
| このページの著作権は学校法人工学院大学が有しています。 Copyright(c)2012 Kogakuin University. All Rights Reserved.
 |  |