| 2012年度工学院大学 第1部マテリアル科学科
 
 □科学倫理(Science Ethics)[5D71] 2単位
 中村 昌允 非常勤講師
 
 
 
<授業のねらい及び具体的な達成目標>
  (1)科学技術者が負っている社会的責任を自覚し、プロフェッショナルな科学技術者となるための「技術者倫理」の基礎的考え方を身につける。(2)行動の規範は「公衆の安全、福利、健康を最優先する」ことである。
 (3)科学技術者は、上記の行動規範と組織や顧客との契約との間で、技術者としてのジレンマに悩むことがある。その時にどのように行動するかを考える。
 (4)講義は、実際の事例を、当事者の立場に立って「仮想体験」し、実際の場でどのように判断し行動するかを考える。
 
<授業計画及び準備学習>
  #1.イントロダクション: 講義ガイダンス 私と技術者倫理の関わり#2.技術者倫理はなぜ必要か。: 技術者倫理の基本的考え方の紹介
 #3.技術者のジレンマ(ケース事例)
 #4.説明責任―1 福島原発事故とリスクマネジメント
 福島原発事故により、人々は原子力発電の安全性に強い懸念と不信感を抱いており、原発そのものの存続が議論されている。しかし、この事故は技術の問題もさることながら、リスクマネジメント(事前の備え)とリスクコミュニケーション(原子力発電に対する説明責任)の問題である。
 #5.説明責任―2 専門家の責任
 専門家の責任について「福島原発事故の放射線強度」「BSE」を事例に、日本人のリスク認識、専門家の説明責任について考える。
 #6.プロフェッショナルな技術者の行動―1 経営者と技術者の判断
 「チャレンジャー号の爆発」と「シティコープビルの強度補強」を事例に、経営者と技術者の判断はどのように違うかを考える。
 #7.プロフェッショナルな技術者の行動―2 設計技術者の責任
 製品に関する事故はほとんどが開発・設計に起因する。「自動回転ドア事故」「三菱自動車リコール事件」を事例に、設計に携わる技術者の責任について考える。
 #8.プロフェッショナルな技術者の行動―3 事故はヒューマンエラーによるものか
 「JR西日本福知山線断線事故」は、直接原因は運転手のスピードの出し過ぎであるが、人間のミスを原因とする限り、事故の再発を防ぐことはできない。
 #9.危機管理: トラブルが生じたときの行動
 「集団食中毒事件」「タイレノール事件」を事例に、危機管理の在り方について考える。
 #10.新規技術の開発−1 どこまで安全を求めるか
 科学技術に完璧はない。完璧でない以上、リスクはゼロにすることはできない。すなわち、どこまでのリスクを許容するかが問われる。安全に対する日本と欧米との考え方についても紹介する。
 #11.新規技術の開発―2 リスクアセスメント
 新しく開発した技術のリスクを低減するには、リスクアセスメントが極めて重要である。
 リスクアセスメントの概要と、その社会的意義について考える。
 #12.新規技術の開発―3 製品事故と製造物責任
 「カビ取り剤」「ガス瞬間湯沸かし器」「エレベーター事故」を事例に、製品安全とは何かを考える。
 #13.環境倫理と循環型社会
 環境倫理の基本的な考え方として、地球の有限、世代間倫理、生物保護がある。さらに、予防原則とは何かを紹介する。
 #14.日本の国際競争力とMOT
 日本の国際競争力は、スイスIMDの評価では、2011年27位である。
 これをどのように考えるのか。
 #15.期待される技術者
 これから期待される技術者について考える。
 
<成績評価方法及び水準>
  講義の出席が7割以上のものを成績評価する。評価は、毎回の小レポート(4割)、期末課題レポート(6割)で行う。
 
<教科書>
  中村昌允「技術者倫理とリスクマネジメント」オーム社(2012年)
<オフィスアワー>
  19F化学系事務室 講義の前後
<学生へのメッセージ>
  科学技術者の行動に模範解答はない。それは今行動する状況と同じ状況が、将来再び生まれることはないからで、それぞれの瞬間で、自らの有する判断・行動基準に基づいて最善を尽くすしかない。講義では実際の事例を、仮想体験することによって、実践的な判断ができるようにしたい。
 
   
 
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