2011年度工学院大学 第1部応用化学科
医薬品開発(Development of Medicine)[4E19]
2単位 溝上 一敏 非常勤講師
- <授業のねらい及び具体的な達成目標>
- 一つの医薬品を開発するには、少なくとも10年間という年月や莫大な費用がかかる。そのため、医薬品開発には、関連する知的財産調査や開発時点での同じような医薬品の有無の予測のみならず、疾患治療の満足度の予測など先見性と長期展望が必要とされる。その上、医薬品の開発は領域横断的な総合的プロジェクトである。そこでは、薬学、有機化学、医学といった理系の学問のみならず、経済学、法学のような様々な学問領域が総合的に係わり合って医薬品開発を支えている。このような課程を経て生まれ出た医薬品のタマゴは、実際にヒトに投与する臨床試験が行われ、そこで得られた試験結果は国の機関により精査後、認可されてはじめて医薬品が誕生することになる。しかし、医薬品はヒトの生命と関連する故に、認可のハードルは高い。そのプロセスを概略すると次のようになる。
1.疾患・病態の薬理実験による解明や、これらに関する情報の収集 2.対象とする疾患と標的とする分子の設定 3.標的に作用する活性物質(リード化合物)の探索 4.誘導体合成によるリード化合物の効力の改良と安全性の評価 5.活性物質の最適化と開発候補物質の選定 6.動物による薬理実験(前臨床試験) 7.ヒトに対する治験(臨床試験) このような開発現場で起こっていることや考えられていることに触れることにより、医薬品開発の面白さや困難さと、そこに携わる者に何が求められているかを学ぶ。 以下に具体的な達成目標を示す。 1.医薬品の対象とする疾患や標的を選ぶ際に、考慮するべきことを理解する。 2.創薬研究の段階的な進め方と、各段階で考慮すべきことと、リード化合物の概念およびその最適化の過程を把握する。 3.製剤化と前臨床試験(動物)を理解する。 4.開発研究(臨床試験)と承認申請のアウトラインを理解する。 5.医薬品の品質とその安全性がどのようにして保障されているかを学ぶ。
- <授業計画及び準備学習>
- I.医薬品とは
1.医薬品の定義と日本の医薬品産業 2.現代の疾患と将来予測 3.医薬品研究開発のプロセス 1)医薬品の基本的性格 2)探索研究段階―研究テーマの設定の重要性 II.探索研究(創薬研究)段階(リード化合物を創出する方法) リード化合物の創出と最適化研究、候補化合物の選定 1.既存薬の化学構造を基盤とする方法 2.生物活性物質の構造を基盤とする方法 1)生理活性天然有機化合物 2)生体内生理活性物質 3.スクリーニングから得られた活性物質を基盤とする方法 1)評価系の構築 2)スクリーニング系(評価系) (1)高速スクリーニング(High―Throughput Screening:HTS) (2)in Silico Screening 3)スクリーニングに提供する化合物 4)構造活性相関とファーマコア 5)化合物ライブラリ(設計と構築) 6)ヒット化合物の選抜と化学変換 4.候補化合物の選定と最適化研究 5.前臨床の薬理・薬効試験 6.薬物動態と製剤設計 III.特許と知的財産 IV.臨床研究段階(開発研究) 1.第I相臨床試験 2.第II相臨床試験 3.第III相臨床試験 4.ブリッジング試験 V.審査段階 1.流通・使用段階―市販後調査 2.副作用報告制度 3.再審査制度 4.再評価制度 VI.開発の具体例 クラリスの開発(マクロライド系抗生物質) (交渉中:タクロリムスの開発(免疫抑制剤)、メバロチン(脂質低下剤)) VII.その他 抗体医薬などの生物製剤や個の医療についても若干ふれる。
- <成績評価方法及び水準>
- また、実際に医薬品開発に関与し成功した企業の研究者に、講演して貰う予定である。このような機会はあまりないと思う。このような話を今後の自分の糧として頂きたい。
- <教科書>
- 特に指定しない。
- <参考書>
- 長野哲雄ら編著「創薬化学」(東京化学同人、2004年)、北泰行編著「創薬化学―有機合成からのアプローチ」(東京化学同人、2004年)
(特に購入の必要なし。)
- <オフィスアワー>
- 授業終了後15分程度講義室前で行う。
- <学生へのメッセージ>
- 講義は主にパワーポイントを使用しておこなうが、重要と思われることはプリントを作成し配布する。但し、細かいことはプリントには記載されていない。従って、自分で工夫してノートをとること。この作業によって論理性が培われ脳も活性化される。これは、どの講義についても共通している。また、実際に医薬品開発に関与し成功した企業の研究者に、講演して貰う予定である。このような機会はあまりないと思う。このような話を今後の自分の糧として頂きたい。
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