2010年度工学院大学 第1部機械システム工学科

作家とその世界(Works of Literary Giants)[1313]

試験情報を見る] [授業を振り返ってのコメント(学内限定)

2単位
永野 宏志 非常勤講師

最終更新日 : 2011/02/21

<授業のねらい及び具体的な達成目標>
「いかにして現代のリスキーな閉塞状況を生き延びるか」・・・これがこの講義のテーマである。違和感、不安、恐怖、パニック・・・安定状態から離脱すると生じるこれらの感覚や事態を、恐怖小説を題材として、管理社会が強化され個々の生活が不安定さを増す現代の生について考察する。
今日、メディアは現実を情報によって地球大に肥大させている。このサイバーな現実は、光の速度にモノの重さを持つ物流が追いつこうとしてシステム全体にアクシデントが生じ、日常を一気に崩壊させる危険を孕む。クリック一つで世界に繋がっているのにそれに追い付けない生きた身体は悲鳴をあげ続けている。何事も先回りされ選択肢が与えられて、その中から選ぶのが自由であるかのようにと思いこまされるこの閉塞感は、出口なしの世界をさまよう恐怖小説の登場人物たちに似ている。
この講義では、既成の幻想・ホラー小説を対象とするが、テロ以後の現代における恐怖という観点から、「Terror(テロ、恐怖)小説」というかたちで取り上げたい。

<授業計画及び準備学習>
題材は1930年代の『ドグラマグラ』から2000年代の『着信アリ』『Death note』近辺までを、海外小説も交え各テーマにわけて進行する。
なおテーマの性質上感情を左右するシーンを扱う場合もあるので、あらかじめご了承いただきたい。

第1回   心身状態の変化(1)・・・違和感・不安・恐怖・パニック 初級編
第2回   心身状態の変化(2)・・・違和感・不安・恐怖・パニック 中級編
第3回   心身状態の変化(3)・・・違和感・不安・恐怖・パニック 上級編
第4回   環境の変化(1)・・・出口なし(a)-密室空間-
第5回   環境の変化(2)・・・出口なし(b)-迷宮空間-
第6回   環境の変化(3)・・・出口なし(c)-先に進まない時間-
第7回   個としての私の変化(1)・・・心理-憑依・狂気・二重人格化-
第8回   個としての私の変化(2)・・・身体-変形・変身・融合-
第9回   個としての私の変化(3)・・・存在-失踪・消失・死-
第10回   他者に管理される生(1)・・・監視される日常
第11回   他者に管理される生(2)・・・凌辱される日常
第12回   他者に管理される生(3)・・・操作される日常
第13回   残酷さについて・・・無痛社会における痛みと痛さ(1)
第14回   残酷さについて・・・無痛社会における痛みと痛さ(2)
第15回   学習成果の確認(試験)

<成績評価方法及び水準>
毎回講義後半の10分程度その回のテーマに即した課題をその場で記述して平常点(50点)とし、さらに期末試験を実施し(50点)、両者併せて総合的に評価する。

<教科書>
対象とする小説が複数であるので、毎回プリントを配布し、必要な文献はDVD、ビデオなどでもそのつど提示する。

<参考書>
鷲巣義明『恐怖の映画術』(キネマ旬報社)、森岡正博『無痛文明論』(トランスビュー)、マリー=ロール・ライアン『可能世界・人工知能・物語理論』(水声社)、三浦俊彦『虚構世界の存在論』(勁草書房)、M・マクルーハン『メディア論』(みすず書房)、J・v・ユクスキュル『生物から見た世界』(岩波文庫)、河本英夫編『精神医学』(青土社)

<オフィスアワー>
講義の前後10分程度

<学生へのメッセージ>
IT社会以後工学系の仕事は海外移転され、国内では社会に出ることも厳しくなっている。理系文系の区別がITによって消滅しつつある今、自分で何をエンジニアリングするか、真剣に考えて講義に臨んでいただきたい。IT社会に即対応できる人材を育てるため、寝るしゃべる等はその場で単位なしとするので、その点を熟慮したうえで受講してもらいたい。

<備考>
1995年以降メディアにおける臨床問題が前景化したとする中井久夫氏らの報告があり、「癒し」等の表現で現代生活に浸透している。<病院管理>的な現代社会の基本タームは、田中智志氏『臨床哲学がわかる事典』(日本実業出版社)がテーマごとにマッピングしているので参照されたい。

 

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