2010年度工学院大学 第1部機械システム工学科
△日本の社会思想(Social Ideas in Japan)[1311]
2単位 荒川 敏彦 非常勤講師
- <授業のねらい及び具体的な達成目標>
- わたしたちは、いやおうなく、この「社会」の中で生きていかねばなりません。同時に、いやおうなく、この「環境」の中で生きていかねばなりません。では、わたしたちが運命的に関わらねばならない「社会」と「環境」は、どのように関係しているのでしょうか。社会思想においても、この問題をなおざりにすることはできません。
この授業では、環境問題・公害問題と日本社会との関係を、江戸時代から現代までの事例を振り返りながら考えていきます。複数の事例を検討していくと、日本社会がなぜ「公害大国」と言われるのか、歴史的に変わらない(=反省をいかせない)日本社会の姿を、そしてその日本社会を支える人びとの姿を、認識することになるでしょう。 社会思想は、「暴走する社会」に飲み込まれないために、つまり自分の人生のために必要なのです。最終的には、社会に安穏と依存する生き方ではなく、自らが社会をつくっているのだという意識をもってもらうことが目標です。
- <授業計画及び準備学習>
- 環境問題の歴史的かつ社会構造的な問題を、「公害」の視点から歴史的に振り返っていく。それを通して、現在まで延々とつづく日本社会の病巣を具体的に検討していきたい。
(1)ガイダンス、江戸初期の公害・環境問題 準備学習:環境問題と公害問題の区別をつける (2)江戸後期の公害・環境問題 準備学習:江戸時代の公害問題への対処の仕方をまとめる (3)明治から大正期の公害・環境問題 準備学習:公害問題への世論の対応を考える (4)軽工業労働者の被害 準備学習:現代の労働者が置かれている労働環境を考える (5)足尾鉱毒問題[1]田中正造 準備学習:田中正造の文書を読む (6)足尾鉱毒問題[2]歴史的経緯と現代 準備学習:足尾鉱毒問題の顛末をふり返る (7)水俣病問題[1]歴史的経緯 準備学習:最近の水俣病問題の新聞・テレビの報道に注意する (8)水俣病問題[2]構造的問題 準備学習:科学技術者の問題も含め、問題の構造を考える (9)水俣病問題[3]現代の課題 準備学習:現在の問題の進展について報道などで調べる (10)4大公害裁判 準備学習:日本の高度経済成長期の社会背景を考える (11)現在の公害・環境問題[1]リサイクル制度の悪用 準備学習:リサイクルとは何かを考える (12)現代の公害・環境問題[2]産業廃棄物の不法投棄 準備学習:自分の身近な工事現場を観察する (13)現代の公害・環境問題[3]放射性物質の処理問題 準備学習:原子力発電所関連の新聞報道に注意する (14)まとめ 準備学習:授業で考察してきた事例をふり返っておく (15)学習成果の確認(試験)
- <成績評価方法及び水準>
- (1)学期末の筆記試験(70%)
(2)授業中の小レポート(30%) (1)と(2)を総合して、60点以上の者に単位を認める。 公害問題の歴史を通して、日本社会のあり方にひとつの見通しをもち、自己の考えを提示できるかどうかが基準となる。
- <教科書>
- なし。適宜プリントを配布する。
- <参考書>
- 足尾鉱毒問題については、田中正造『田中正造文集』(岩波文庫)、また水俣病問題については、石牟礼道子『苦海浄土』(ちくま文庫)および栗原彬『証言 水俣病』(岩波新書)などが基礎文献。
- <オフィスアワー>
- 授業終了後に教室で。
- <学生へのメッセージ>
- 映像をたくさん見ます。現場の映像とおして、問題の深刻さに驚くと思いますが、それが紛れもない日本社会の現実です。公害・環境問題は、社会をどう運営するかの問題でもあります。自らが生きる社会について、どのような思想を打ち立てることができるのかを考えていきましょう。
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