2009年度工学院大学 グローバルエンジニアリング学部機械創造工学科
世界の歴史認識(Various Recognitions of History in the World)[4522]
2単位 塚本 剛 非常勤講師
- <授業のねらい及び具体的な達成目標>
- 現代における世界認識の差異は詰まるところ、文化的背景の相違にある。歴史という文化をもつかもたないかによっても、世界の認識は大きく異なる。歴史をもつ文明は、その認識において時間的経緯をもって説明しようとするが、もたない文明はそうはいかない。また歴史も自分たちの住む世界を時空間にそって言語で表現する以上、個別的性格が強く、その普遍性は弱い。世界のあらゆる文明を普遍的に説明しうる歴史観は存在しない。そしてそれぞれの文明が、様々な歴史的事象について、固有の歴史観に立脚した固有の解釈を行い、正統性を訴える。このような現状において相互理解は、相手の文明のもつ歴史観を理解してこそ、その糸口がつかめると考えられる。そしてその可能性がいかほどにあるのか受講生とともに考えていきたい。
(JABEE学習・教育目標) 「国際工学プログラム」:(E)コミュニケーション能力と国際感覚の習得:◎ (A)多面的な視点から考え る能力:○ JABEE基準1の(1)の知識・能力:(a):◎(f):○ (前提となる基礎知識と習得後の展開) 本科目を履修する前に、高校世界史の最低限の基礎知識を習得しておくことが望ましい。 本科目で習得した内容は、「国際化と異文化理解」、「国際関係と文化」、「国際企業論」などの科目の履修に役立つ。
- <授業計画及び準備学習>
- 第1週 [ガイダンス]そもそも「歴史」をもつ文明ともたない文明があること、また歴史認識の違いが各地域の文化の違いから生じ、なかでも宗教観から由来するものが大きいことを検討する。『歴史のある文明 歴史のない文明』に目を通してくる準備学習をすること。
第2週 [東アジアの歴史認識1]中国の歴史認識について、その歴史書=「正史」の編纂について検討し、中国人にとっての正統観を探る。高校世界史の中国史の部分についてと参考書『史記の構成と太史公の声』に目を通す準備学習をしてくること。 第3週 [東アジアの歴史認識2]中国の歴史認識はその特異な正統観による王朝支配によって構造的に支えられてきたものであり、王権と歴史認識との関係を検討する。 第4週 [南アジア・東南アジアの歴史認識]「歴史がない」といわれる両地域の独特な世界観について、宗教観に注目しつつその形成過程を学ぶ。高校世界史のインド、東南アジアについて準備学習してくること。 第5週 [中央アジアの歴史認識]実は世界史の展開が東西交易路を掌握した中央アジアの騎馬遊牧民によって形成されてきたことを明らかにして、そのダイナミズムを検討する。高校世界史の中央アジア、北アジアについてと参考書の『シルクロードと唐帝国』に目を通す準備学習をすること。 第6週 [西アジアの歴史認識]世界で初めて「世界」を意識し「世界」の歴史を叙述したのは、イスラームであり、西アジア発祥のイスラム教が持つ強烈な「社会意識」について学ぶ。高校世界史のイスラームについてと参考書『イブン・バットゥータの世界旅行』、『歴史序説』に目を通す準備学習をしてくること。 第7週 [イスラームの歴史認識]モンゴル帝国下のイスラームで「世界史」が誕生したことを検証する。『世界史の誕生』について準備学習してくること。 第8週[西ヨーロッパの歴史認識1]今日の「グローバルスタンダード」を生んだ西ヨーロッパの歴史認識について、ユダヤ教、キリスト教が与えた影響とその展開についてを学ぶ。高校世界史の西ヨーロッパの部分について復習することと、『針の上で天使は何人踊れるか』に目を通す準備学習をしてくること。 第9週 [西ヨーロッパの歴史認識2]「自由」「平等」という価値認識を生み出したヨーロッパ近代史の裏側に、根深い差別意識に支えられた「社会進化論」が存在していたことを学ぶ。 第10週 [東ヨーロッパの歴史認識] ギリシア、ローマで培われた歴史観が一直線に西ヨーロッパに繋がったのではなく、ビザンツ帝国で涵養されていたことを検討する。高校世界史のビザンツ帝国を中心とする東欧部分について準備学習してくること。 第11週 [ロシアの歴史認識]アジアの一部とみなされてきたロシアがいかに西欧文明を受容し、ついに西欧へのコンプレックスを脱却して独自の歴史認識を持つに至ったかを学ぶ。また、近代以降そのロシア(ソ連)の圧力を受け続けた東ヨーロッパの苦悩について学ぶ。高校世界史のロシア史について準備学習してくること。 第12週 [アメリカの歴史認識]西ヨーロッパ文明を継承し、「グローバルスタンダード」へと発展させたアメリカの持つ先進性と保守性について学ぶ。特にアメリカがキリスト教でもヨーロッパでは非伝統勢力であるプロテスタントを中心に結成された国家であることに留意し、その特異な正統観ゆえにしばしば持ち出される「正義」の本質に迫りたい。高校世界史のアメリカ史についてと参考書、『十字軍の思想』について準備学習してくること。 第13週 [現代日本の歴史認識]現在の日本のオピニオンリーダーである歴史家や、歴史哲学者の代表的な歴史観を取り上げ、検証する。『史學雜誌』2008年第5号の「歴史理論」に目を通す準備学習をすること。 第14週 [世界の歴史認識と現代の諸問題]本講義の総まとめをする。前週に討議すべき課題を明示するので、それについて意見を表明して貰いディスカッションをしてもらう。その内容については評価の対象にする。 第15週 教室において試験を実施する。
- <成績評価方法及び水準>
- 試験の結果によって評価する。世界各地の歴史認識の特徴を理解できているか、課題に関して自己の見解を明確かつ論理的に述べているかどうかを評価基準とする。欠席が目立つ者、私語など講義を妨げる行為が目にあまる者には試験の答案内容いかんに関わらず評価を与えないので注意されたい。具体的には定期試験90%、講義中の発言等に見るべきものを10%で評価し、60点以上を合格とする。ただし5回以上欠席したものは、履修放棄と見なし、成績評価を行わない。また1昨年のレポートで実際にあったことではあるが、他人の論文等の著作物の無断引用、剽窃、盗作については厳正な態度で臨む。これらは漏れなく著作権法違反の違法行為であり、かかる知的財産権の侵害については許されないものであると認識されたい。
「国際工学プログラム」の学習・教育目標(A) (B)および(E)は、本科目およびこの目標に対応する卒業に必要な他の該当科目をすべて習得することにより達成される。
- <教科書>
- 使用しない。
- <参考書>
- 毎回の講義で参考資料をプリントして配布する。参考書として読んでおくと授業理解の支えとなるものを推奨しておくと以下のようになる。
岡田英弘1992『世界史の誕生』ちくまライブラリー 岡田英弘、樺山紘一、川田順造、山内昌之1992『歴史のある文明 歴史のない文明』筑摩書房 ダレン・オルドリッジ2007『針の上で天使は何人踊れるか』柏書房 家島彦一2003『イブン・バットゥータの世界旅行』平凡社新書 イブン=ハルドゥーン著、森本公誠訳2001『歴史序説』岩波文庫 山内進2003『十字軍の思想』ちくま新書 森安孝夫2007『シルクロードと唐帝国』講談社 伊藤徳男2001『史記の構成と太史公の声』山川出版社
- <オフィスアワー>
- 授業終了後教室で。 または 授業終了後、兼任講師室で。
- <学生へのメッセージ>
- 高校時代までのともすれば暗記する科目ではなくして、教養人が習得すべきリベラルアーツとしての歴史を提供したく、講義に臨む。よって講義を受講し、自分なりの問題意識をもってそれを論理的に思考することを求めたい。意欲ある学生の受講を望む。
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