2008年度工学院大学 第1部環境化学工学科
○化学技術者の倫理(Ethics for Chemical Engineers)[5D03]
2単位 中村 昌允 非常勤講師
- <授業のねらい及び具体的な達成目標>
- 日本の製造業の生き残りが問われている。化学産業は新しい物質・技術を生み出すことによって発展してきた。今後とも技術革新が必要であるが、そこには未知の危険が潜んでいる。
技術者は、自分が生み出したものがもたらす結果に対して責任があり、科学技術の危害防止,災害からの防止,公衆の福利に努めねばならない。一方では技術者は組織に属し、また顧客の依頼に応えていく必要がある。そのときにジレンマに陥る事がある。そのようなときの行動基準、そして判断の支えとなるものを身に付けたい。 1.技術開発の社会に及ぼす影響の大きさと関わりを理解し、技術者が負っている社会的責任を自覚し、 プロフェッショナルとして行動できる技術者になるための倫理的考え方の基礎を学ぶ。 2.それぞれの局面でどう考え、どう行動するかを、自分で考え、自分で判断できるようになるために、 具体的事例を通して、その対処の仕方を学ぶ。 [達成目標] (1)化学産業の歴史と特徴を知り、今後の生き残りのための課題を説明できる。 (2)技術者倫理が必要とされる背景と重要性を理解し、説明できる。 (3)化学物質の安全管理と製造業における安全確保の心構えについて説明できる。 (4)科学者・技術者の社会での役割と責任を自分の言葉で説明できる。 (5)内部告発,説明責任,製造物責任,リスクマネジメントなど技術者行動に関する用語を理解し 説明できる。 (6)21世紀の技術者のあり方について自分の考えを表明できる。
- <授業計画>
- <授業計画>
第1回 技術者倫理は何故必要か 科学技術の発展と技術者の社会的責任が求められるようになった背景、化学技術者のプロフェッショナルとしての行動、相互依存関係などについて学ぶ。 第2回 化学産業の特徴と発展の歴史 戦後の化学産業の発展の経緯を振り返り、公害問題、安全性の問題、プラントの安全などの問題を克服してきた。化学産業が開発ウエイトの高い産業で、そこには常に事故の危険が潜んでいるが、それを克服する事が求められている。発展の事例は、洗剤産業を事例として具体的に説明する。 第3回 化学プラントの安全確保 化学産業の安全を確保するための基礎知識を紹介し、幾つかの化学産業における事故事例をケースとして紹介し、そこでの技術者の行動について考える。 第4回 事例から学ぶ技術者の行動 事前に3つの事例を配布し、それについて各自が検討して講義に臨む。講義はクラス討論の形式で、それぞれの事例における技術者の行動について考える。 第5回 プロフェッショナルとしての技術者の行動―1(内部告発) チャレンジャー号爆発事故、シテイコープビルの設計を取り上げ、技術者の行動を考える。 事故を予知していた技術者の行動と内部告発に至った経緯を知り、技術者のプレゼンテーションの重要性と内部告発について考える。内部告発には基準がある。 第6回 プロフェッショナルとしての技術者の行動―2 (説明責任) JCO事故、もんじゅ事故など原子力関係の事故を取り上げ、なぜ、化学プラントなら問題にならないことが原子力発電では存亡に関わる事故となるかを学ぶ。また洗剤の安全性などの事例を通して、説明責任の重要性とそのあり方を考える。 第7回 プロフェッショナルとしての技術者の行動―3(リスクマネジメント) 人体に絡んだ事故として、雪印集団食中毒事件、薬害エイズ、を取り上げ、事前の対応としてのリスクマネジメントの考え方、ならびに事故後の危機管理について学ぶ。ここで取り上げる事件はいずれも人為的判断が関与したために、事故やトラブルで済む事が、事件になってしまった。 になってしまった。 第8回 プロフェッショナルとしての技術者の行動―4(製造物責任) カネミ油症事件、カビ取り防止剤、自動回転ドアの事故を事例として、製造物責任(PL法)の考え方と、施行後の製品開発への影響を考える。あわせて、製品安全に関するトラブルが増えており、製品安全の考え方とそこでの技術者の行動について考える。 第9回プロフェッショナルとしての技術者の行動―5(企業倫理) 自動車リコール事件、食肉偽装事件、JR西日本脱線事故の背景と再発防止について一緒に考える。併せて、企業不祥事に対する経団連の対応、企業倫理の基本とコンプライアンスを説明する。 第10回最近の事故とそこでの技術者の行動 最近の事件として、建築強度偽装、シンドラー社エレベーター、ふじみ野市プール事故、パロマ事故などを取り上げ、技術者の行動について考える。 第11回地球環境問題と循環型社会 21世紀は20世紀と比較してどのような技術が必要とされるかを、地球環境問題、特に温暖化に絡むCO2 排出量削減、エネルギー資源枯渇、地下資源の枯渇、食糧問題の台頭などを、一緒に考える。 21世紀の技術開発が、循環型社会への移行が必然である事、新たな資源からではなく、これまで作られた人工物から「モノ」を創り出す新たな仕組みに変革せざるを得ない事を認識する。 第12回21世紀の技術開発 日本の技術開発力の現状と国際競争力、産業界での研究開発体制の変化、大学独法化に伴う動きなどを紹介し、各企業が自前主義から横の連携時代に移行してきたことを理解する。 併せて、JABEEの考え方や産業界が大学の技術者教育に期待していることを紹介する。 第13回期待される技術者 企業での研究開発経験をもとに、研究から開発、事業化、製品化に至る「死の谷」を紹介し、これを乗り越えるための先人達の思想を紹介する。 併せて、技術者として生きていくための倫理規範を説明する。
- <成績評価方法及び水準>
- 講義の理解度をチェックするために、毎講義ごとに、小感想文を提出する。
成績評価は期末レポート60%、毎回の小感想文40%の割合で評価し、 60点(100点満点)以上を合格とする。 期末レポートの提出資格は、出席率が70%以上 (9回以上の講義出席) であること。 なお、期末レポートの結果を含む評価が極めて低い場合には履修を認めないことがある。
- <教科書>
- <教科書>
「事故から学ぶ技術者倫理」 執筆者 中村昌允 出版社 工業調査会(2005年4月発売)
- <参考書>
- <参考書>
・ 社団法人日本技術士会訳編「科学技術者の倫理―その事例と考え方」(丸善) ・ NPO法人 科学者技術倫理フォーラム編「説明責任・内部告発」 (丸善) ・ 西原英晃 監訳「工学倫理入門」(丸善)
- <オフィスアワー>
- 講義終了後、質問時間をとる。
東京農工大学 大学院技術経営研究科 電話 0423−88−7662
- <学生へのメッセージ>
- 技術者の行動に模範解答はない。
本講義では具体的事例を数多く取り上げ、そこでの背景や問題点、再発防止策をケーススタデイすることによって、それぞれの局面で自分ならどう判断するかを考え、将来の実務の場での判断基準が構築できるようにする。 あわせて、21世紀の技術開発に必要な基礎知識として、大学と産業界との連携を概説し、社会に役立つ技術者を育成する。
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