2008年度工学院大学 第1部応用化学科

作家とその世界(Works of Literary Giants)[1414]

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2単位
永野 宏志 非常勤講師

最終更新日 : 2009/11/04

<授業のねらい及び具体的な達成目標>
機械状文学論−生きていることの文学・実践編−

日常と思いがちなこの静止したイメージのホログラム世界から脱し、流体的でカオティックな世界に身をおいて、全てが流動するモードの中で、私は何をする、あるいはどのようにするのかを、さまざまな行為の例から、特に映像表現の言語化という日常的な製作行為を体験する。
印刷技術の開発や写真から映画に至る映像文化の発明からなる複製技術時代が幕を開けた19世紀では、それまで神様から見た世界の始まりと終わりを捉える物語の時間よりも、瞬間の集積としての人間の歴史の時間を捉えることが文字の役割となった。だが実際は、生きている瞬間は単なるイメージとなって、文字を離れカメラによって切り取られる写真や映画で表現されているのが現状だ。では、生きているこの瞬間を生きる私はどう表現すればよいのか?
そこで、現時点の対処法として、映像表現から生きる瞬間を取り出す作業が必要だと思われる。時代を作ってきた現代芸術から広告プランナーなどクリエーターと呼ばれる人たちは、流行を追うだけの消費者身分を先ず切断する。作ったものを欲しがる側から作る側へとシフトすること――それがこの講義の目標である。
たとえば、コピーライターやCM制作者は俳句や川柳など短いパッセージから作ることを学ぶ。しかしそれは、学校の教科書にある昔の人の書いた一行を、机と椅子に身体を固定して読むのではない。作るためには歩き、書きとめ、声を出す必要がある。近代小説は作者と読者を分離したが、俳句は作られると同時に読まれる。携帯メールするとき、小さなモニターを睨むだけでなく、歩き、移動し、短い文字を打ち、送っていることに気づかない者は、消費者という受身で脆い身分に留まるだけである。
世界を絶えざるモード変換として捉える21世紀を、生きる行為として捉える新たな訓練が必要なら、この生きた体と経験から立ち上げるべきだろう。作る側になることは、誰かが作ったことを追いかけるのではなく、そんな自分を断ち切り、自らの行為の無意識に日々気づくことから始まる。

<授業計画>
(1)色彩論(3回を予定)・・・この生きた世界を色彩によって取り出してみる。ゲーテ、ルドルフ・シュタイナー、正岡子規、ジェームズ・タレル、ディズニー等を例に、戦争とカラー映画の関係、カラーとモノクロの違い、色それぞれの特性と広告、建築などへの色彩戦略へと展開し、色彩から世界を自覚的に記述できるようにする。
(2)モード論(4回を予定)・・・文字通り流れ去るものとしてのモードを考える。流行は自分を固定し世界に出回るモノが流行とし選ぶだけの身分から脱する試み。ファッションを入口として日本の代表的デザイナー(山本耀司、三宅一生、川久保玲等)の作る側のモードの捉え方や、自分も含めてモードの中にいる観点で、流れ行く世界と経験の関係をどう表現していくかを体験していく。
(3)ブランク論(3回を予定)・・・意識は生きた世界の狭い範囲しか捉えられずさらに広大な無意識の余白(ブランク)がある。日常世界を作る上での基点となる顔が自分自身では見れない決定的余白であることに気づくことを入口とし、身体の動き自体、環境との関わりという身体の諸感覚をどう捉えていくかを、写真と俳句の違いや小説や映画の表現から学び、言語化していく。
(4)バイオ=グラフィー論(2回を予定)・・・生きていることをどう表現するか。2000年以上にわたる歴史ではモード変換し続けるのは書物だった(たとえば聖書、歳時記等)。現代ではPCモニター上に展開するものがハイパーテクストと呼ばれる。一つのフォルダは広大な余白に浮かぶ断片でしかなく、別のPCやサイトとアクセスしつつ流動する。しかし、モニターの外にある身体と環境はどうなっているのか。このクールは、講義全体の総括となる。

<成績評価方法及び水準>
毎回講義後半15分程度でその回のテーマについて俳句を7〜10句その場で制作し、次回に優秀者を発表して平常点(出席点+記述内容の評価A・B・C・D・×等)とし、さらに期末での試験と併せて総合的に評価する。教師も学生も考え制作する時間となるので、私語する者、寝ている者の単位はその時点で消失することを心して受講していただきたい。意欲ある学生のみ歓迎する。

<教科書>
講義が機械状に多岐にわたる性格上、プリント配布やビデオ・DVD等でそのつど提示していく。

<参考書>
ゲーテ『色彩論』(ちくま学芸文庫)、市川浩『身の構造』(講談社学術文庫)、河本英夫『オートポイエーシス2001』(新曜社)、ロラン・バルト『表徴の帝国』(ちくま学芸文庫)、同『明るい部屋』(みすず書房)、北川透『詩的レトリック入門』(思潮社)、ヴァルター・ベンヤミン『写真小史』(ちくま学芸文庫)、季刊『Mode et Mode』(モードェモード社)、辻信一『スロー・イズ・ビューティフル』(平凡社ライブラリー)、C・ダグラス・ラミス『経済成長がなければ私たちは豊かになれないのだろうか』(同)、アントニオ・ネグリ『<帝国>をめぐる五つの講義』(青土社)、J-C・リュアノ=ホルバラン&amp;S・アルマン『グローバリゼーションの基礎知識』(作品社)、アル・ゴア『不都合な真実』(ランダムハウス講談社)、C・K・プラハラード『ネクスト・マーケット』(英治出版)
(※DVDやPV等の映像資料は、講義の際にそのつど提示する。)

<オフィスアワー>
講師室にて講義の前後10分程度なら可能である。

<学生へのメッセージ>
IT産業と外資系の資本介入で、景気はよくなっても人件費が削られ就職が制限される現在、与えられた何かにすがることが困難な時代である。理系も人材余りの時代となった。大学時代は就職の準備期間ではない。自分から作る側になり、例えば起業する側へシフトできるか。そんな自分を試す時期として大学時代を過ごす人たちが増えることを期待する。

<備考>
俳句の様々な決まりなどは知らなくてもよい。重要なのは短いパッセージを自らの膨大な経験の中から端的に表現していくことである。それでも季語・切れ字などの作法が気になる場合は楠本憲吉『現代俳句』(学燈文庫)が近現代の代表的俳人と俳句を、『吟行・俳句歳時記』(祥伝社)が季語などの例を見るのにハンディである。絶版だが『俳句の本』(朝日出版社)はオールカラーで解説も端的で読みやすい。古本であった場合は手に取っていただきたい。

<参考ホームページアドレス>
ナマケモノ倶楽部http://www.sloth.gr.jp/

 

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