2008年度工学院大学 第1部機械システム工学科

近代の文学(Modern Japanese Literature)[1312]

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2単位
永野 宏志 非常勤講師

最終更新日 : 2009/11/04

<授業のねらい及び具体的な達成目標>
機械状文学論−生きていることの文学・理論編−

生きていることを生きているこの今に考えること――これだけがこの時間のテーマである。だがこれがむずかしい。なぜなら、言葉から逃れるものを言葉で示そうとするからである。そのために、これまでの言葉の使い方そのものを変える必要がある。
命という言葉が重視される時代ではある。が、医師が症状から病因をある臓器に特定すると生のない対象となるように、生きた世界も言葉によって切り刻まれる運命にある。さらには、人は言葉のパーツを組み合わせて世界を作れるとさえ思い込む。私たちがリアリティと呼ぶものは、そんなふうに生きた世界を言葉で覆った後に広がるイメージという死の世界だろう。バラバラの臓器を集めても命にはならない。
生きていることは切り刻んで集める言葉の操作だけでは届かない。言葉から世界をイメージするかぎり、私たち自身の生はただちに逃れ去る。生きていることを執拗に描く文学も、言葉から世界をイメージさせるだけなら商品のように死んだ対象として消費される。書くことは生きていることからさらに遠ざかる。
では、言葉で作られた文学で、どうすれば生きていることを示せるのだろう?生きた経験を個人の枠で語るなら人生論と変わらない。しょせん他人の話だからだ。それでもなお、生きていることに沿おうとするなら、経験を個人から解放しなくてはならない。ただし、生きた経験を一般的に扱うのではないやり方で・・・。言葉の用法も慎重さが必要だ。医師の診断で留まるのではなく、生きていること自体と向き合うリハビリ専門家、看護師、セラピストらが行なうような臨床的アプローチへ転回すべきである。
生命科学、脳神経科学、認知療法等の考えを参照するなら、生きた経験は、個人である私の枠を超えて機械状に今このときも構成され続けている。生きた世界でのコップと私の関係では、コップにも経験が作動し、それを包む光と重力も作動の環境となっている。経験は、光、重力etc.→椅子-私-コップ-机-床etc.→etc.のように私を踏み越えて環境へと連鎖し、さらに私の動きとともに連鎖の仕方も変わり続けるだろう。セラピストたちは患者の経験の機械状の連鎖に慎重に沿って事を行なう。この時間も、日本近代文学を基点とし様々な分野に沿って、機械状に分岐・連鎖していく予定である。

<授業計画>
文学の言葉の中から「生きていること」を体験するテーマは次のとおり・・・
<テーマ>
・夢野久作とアーサー・C・クラーク・・・遺伝子還元主義と悪循環の使用法
・ヤーコプ・フォン・ユクスキュルと精神病映画・・・環世界とファンタズム
・安部公房とウィリアム・バロウズ・・・他なるものへの生成と生命
・小泉八雲とファンタジー・・・境界と民俗的想像力の結合規則
・尾崎放哉とフランツ・カフカ・・・愚者のユーモアとシステムの思考
・アラカワ+ギンズとヘレン・ケラー・・・情動から形成される生きた世界
・宮沢賢治とアニメーション・・・クオリアの経験と言葉に回帰する子供性
・夏目漱石とスウィフト、ルイス・キャロル・・・強度的世界への冒険
   (※以上、現時点でのサンプルにすぎないことに留意いただきたい。)

<成績評価方法及び水準>
毎回講義後半15分程度でその回のテーマについて記述し、次回に優秀者を発表して平常点(出席点+記述内容の評価A・B・C・D・×等)とし、さらに期末での試験と併せて総合的に評価する。教師も学生も考え行動する時間となるので、私語する者、寝ている者の単位はその時点で消失することを心して受講していただきたい。意欲ある学生のみ歓迎する。

<教科書>
講義が機械状に多岐にわたる性格上、プリント配布やビデオ・DVD等でそのつど提示していく。

<参考書>
荒川修作+マドリン・ギンズ『建築する身体』(春秋社)、ウンベルト・マトゥラーナ+フランシスコ・ヴァレラ『知恵の樹』(ちくま学芸文庫)、河本英夫『システム現象学』(新曜社)、フェリックス・ガタリ『分裂分析的地図作成法』(紀伊国屋書店)、宮本省三『リハビリテーション・ルネッサンス』(春秋社)、長崎浩『動作の意味論』(雲母書房)、アントニオ・ダマシオ『感じる脳』(ダイヤモンド社)、ジル・ドゥルーズ『批評と臨床』(河出書房新社)、リチャード・E・シトーウィック『共感覚者の驚くべき日常』(草思社)、ヤーコプ・フォン・ユクスキュル『生物から見た世界』(岩波文庫)、ミハイル・バフチン『ドストエフスキーの詩学』(ちくま学芸文庫)、トーマス・A・シービオク『自然と文化の記号論』(勁草書房)、辻信一『スロー・イズ・ビューティフル』(平凡社ライブラリー)、C・ダグラス・ラミス『経済成長がなければ私たちは豊かになれないのだろうか』(同右)

<オフィスアワー>
講師室にて講義の前後10分程度なら可能である。

<学生へのメッセージ>
IT産業と外資系の資本介入で、景気はよくなっても人件費が削られ就職が制限される現在、与えられた何かにすがることが困難な時代である。理系も人材余りの時代となった。大学時代は就職の準備期間ではない。自分から作る側になり、例えば起業する側へシフトできるか。そんな自分を試す時期として大学時代を過ごす人たちが増えることを期待する。

<備考>
臨床的アプローチの現状については鷲田清一、養老猛司らが臨床哲学を提唱しており、田中智志『臨床哲学がわかる事典』(日本実業出版社)が簡便なので参照されたい。ただし、臨床は哲学自体の姿勢を再考する問題でもあるので、この時間では、これに従うよりも哲学における臨床的アプローチのひとつの例として参照し、時折検討の対象とするに留める。

<参考ホームページアドレス>
ARCHITECTURAL BODY http://www.architectural-body.com

 

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