2006年度工学院大学 第1部応用化学科
△近代の文学(Modern Japanese Literature)[1416]
2単位 永野 宏志 非常勤講師
- <授業のねらい及び具体的な達成目標>
- 前期のテーマ:<未>学入門――文学はどこまで<未>に留まれるか?
文学や芸術は経験したものをただ再現するのではなく、経験できないものを提示し、未知なる未来へと我々を誘う。そのとき我々は未だ学ばない私を知るだけでなく、「未」というポテンシャルを持った私を学ぶことができる。このテーマを群像として素描しようとするのがこの講義である。 グローバリゼーションにより社会構造が急激に変化する中、大卒の非就業者も急増し、大多数がプロレタリア(ニート、フリーター)化するに従い、未来のイメージも急激に多様化している。もし大学に入っても未来は不透明だと感じるとしたら、誰かに与えられた古い未来のイメージにしがみつき、新たな未来のイメージを個々に持てないからではないだろうか。 日本語には「不・無・非・未」という否定を表す言葉がある。我々は今ある自分が何者かわからぬままただ現在に執着するために「不・無・非」を暴力的に使いわけ、他者を排除し自らの存在の不安と恐怖を避け続けてきた。だが、「不・無・非」によって暴力的に他者との境界線を引いて動かずにいることはできず、不安と恐怖がただ否定し無化しようとしても消えることはない。我々は行動し行為する。そのとき我々は「未定」の者として「未来」へ向かうはずだ。であれば、「未」を消すのではなく学ぶことが必要だろう。 学問が、ただ過去を知るだけでなく、「未だ〜ない」行為する私を知り、既成の未来のイメージを破壊しながら自ら「未」として世界へ向かうよう触発することはできないか。この講義では、それぞれが「未」のポテンシャルを展開するための様々なサンプルを集め、近代日本の文学芸術を基点に、領域横断的に「未学」のプランを作って行きたく思う。 講義の進行も常に「未」であるよう、各サンプルは仮設として、そのつど変えていく余地を残しながら進む予定=未定である。以下に列挙するものはとりあえずのサンプルだが、個々に他と繋がり混ざり合ってもいる。この中から時宜に応じて順不同で抽出したいくつかの話題を、サンプルごと2回をひとつの区切りとして紹介する。が、時間の関係上すべてを扱えず、以下のもの以外に変更する可能性も大いにありうることを承知願いたい。
- <授業計画>
- (前・後期共通のサンプルだが、どちらも中心とする問いは同じであり、順不同にピックアップしながら進む予定=未定なので半期受講でも差支えない。)
☆進化の果て・・・夢野久作とアーサー・C・クラークにおける悪循環 ☆動物の群れ・・・夏目漱石『吾輩は猫である』とミッキーマウスの漏出する欲望 ☆断片・周縁化・・・寺山修司とウィリアム・バロウズの反抗/抵抗 ☆迷宮・・・安部公房『砂の女』とアラン・レネのヒロシマ以後の終わりの始まり ☆コピーとシミュラークル・・・江戸川乱歩における探偵小説と幻想小説の双子性 ☆不死・・・アラカワ+ギンズとヘレン・ケラー『奇跡の人』の視聴覚なしのエコシステム ☆色彩と感覚・・・正岡子規とジェイムズ・タレルのカラフル・スローライフ ☆襞としての生・・・三宅一生、山本耀司、ヴィム・ヴェンダーズのコンテクストとしての日常 ☆機械圏/生命圏・・・大岡昇平とロードムービーの環境-自己のカップリング ☆トランスする物語構造・・・小泉八雲とSFファンタジーの変換を繰り返す規則 ☆マイナー文学と越境・・・宮沢賢治とフランツ・カフカのバイオ・ポリティックス ☆過去の保存法・・・三遊亭円朝と『もののけ姫』の民俗的想像力 ☆転ぶピエロたち・・・尾崎放哉とロシア・アヴァンギャルドの笑いと革命 ☆余白のざわめき・・・柳田國男とグレゴリー・ベイトソンのエコロジカル・ステップス ☆感染と分身・・・日本ホラームービーと二人のデヴィッド(リンチ、クローネンバーグ)
- <成績評価方法及び水準>
- そのつどのインプロビゼーションを通して、学生も教員も自ら未来に触手を伸ばして行く時間としたいので、過去の知識の理解よりも未来へと重点を置く。そのため、講義後半15分を小説や詩の創作やテーマとなる概念を検討するよう、未知へとさまようようなやや無理難題を含んだ100〜200字程度の課題を毎回課す。課題の優秀者は次回の講義に氏名を公表し、5〜10点の加点をする。
課題を毎回提出し、各回の出席と平常点とする。課題提出の少ない者、書けなかった者、書く分量の少なかった者は欠席扱いとするので、解けない問いでも書く努力を大いに要する。さらに、学期末には創作的な試験を実施して総合的に評価する。両者(毎回の課題提出と期末試験)を合計して60点以上の者に単位を認める。講義を欠席した場合は1回につき5点の減点が目安となる。
- <教科書>
- 基本的には、上にリストアップした著者名の文献を扱う予定だが、講義の性格上プリントやビデオ等でそのつど部分的に提示する。
- <参考書>
- ミハイル・バフチン『小説の言葉』(平凡社ライブラリー)、ケネス・バーク『動機の文法』(晶文社)、ジョルジュ・ミノワ『未来の歴史』(筑摩書房)、ハラルト・ヴァインリッヒ『忘却の文学史』(白水社)、ニクラス・ルーマン『近代の観察』(法政大学出版局)、グレゴリー・ベイトソン『精神の生態学』(新思索社)、荒川修作+マドリン・ギンズ『建築する身体』(春秋社)、河本英夫『オートポイエーシス2001』(新曜社)、辻信一『スロー・イズ・ビューティフル』(平凡社ライブラリー)、カトリーヌ・マラブー『ヘーゲルの未来』(未来社)、平井玄『ミッキーマウスのプロレタリア宣言』(太田出版)、江川隆男『死の哲学』(河出書房新社)
- <オフィスアワー>
- 八王子校舎講師室で、授業終了後10分ほど。
- <学生へのメッセージ>
- 「未」である自分がどう世界と関係を結び、生きるのかを考えてみよう。『広辞苑』でも「未」は最低でも以下のようなサンプルがある。以下自分がどれにあたるかを参照し、頭に入れて講義に臨んでもらいたい。
「未開、未解決、未開地、未学、未確認(飛行物体)、未刊、未完、未完成、未決、未婚、未墾、未済、未栽、未収、未熟、未生(以前)、未詳、未定、未進、未遂、未成(年)、未設、未然、未曾有、未組織、未知(数)、未着、未定(稿)、未踏、未到、未得、未納、未配、未発、未払、未分(化)、未亡(人)、未満、未明、未聞、未来、未了、未練・・・(さらに続く)」
以下の関連URLも参考にしてもらいたい。 ARCHITECTURAL BODYhttp://www.architectural-body.com/ ナマケモノ倶楽部http://www.sloth.gr.jp/
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