2005年度工学院大学 第1部建築学科 建築学コース
△作家とその世界(Works of Literary Giants)[1420]
2単位 永野 宏志 非常勤講師
- <授業のねらい及び具体的な達成目標>
- 後期のテーマは<俳句とエコロジー>である。
世界を「花鳥風月」の絶えざるモード変換として捉えていた時代の記憶を伝えるジャンルとして、俳句は、情報とモノにイメージを縛り付けられ、消費の渦に巻き込まれる現代の私たちにどう関わるのか。このような問いから、前期のスロー化した俳句世界を前提とし、エコロジーという現代的な課題を、俳句を通じて考えてゆく。 近代に至るまで、人は自然と交渉しながら生きてきた。英語で耕すcultivateという言葉と文化cultureという言葉が同根のように、ヒトが作り出す文化は、自然との対話が必須だった。だが近代以降、機械などの発達により、自然を排除して人間中心の社会が急速に作られるようになる。すると自然との対話は希薄になり、世界はのっぺりした空間で切り分けられ、移り行く世界は固定され、動くものは心理という新たな闇に封じ込められる。 しかし、人間世界から追いやられ、生命としてではなく資源として扱われ、貶められた自然が、環境問題として私たちの前に突きつけられる現代、自然と対話をする技術も、新たに編み出す必要があるのではないだろうか。心理を伝えることが少なく、顔を描くことの苦手な俳句というジャンルが伝えるのは、自然とこの私との交渉、環境との対話、そこに出来する多様な感覚である。 ここから、俳句というツールを用いながら、現代の私たちが自らの身の丈によって、心理という密室空間に閉じこもる近代的時空から抜け出て、モード変換を繰り返す多様な環境世界とこの私を関係付ける技法を身につけるよう一歩踏み出したい。
- <授業計画>
- 第1回〜第3回
編集(エディット・モンタージュ)論 俳句は世界の編集であり、われわれが世界と思っているイメージも切り貼りで継ぎはぎの編集であることを俳句表現の知覚と行為から考える。 第4回〜第6回 生きた世界の知覚論(1) −天使の知覚− 知覚によって編集される世界の第一のタイプ。視覚を中心とした写真的な表現について、写真と俳句を対比しながら考察する。 第7回〜第9回 生きた世界の知覚論(2) −盲者の知覚− 知覚によって編集される世界の第二のタイプ。聴覚と触覚を中心とした追悼イメージの表現について、映画と俳句を対比しながら考察する。 第10回〜第12回 生きた世界の知覚論(3) −愚者の知覚− 知覚によって編集される世界の第三のタイプ。五感を混交した転倒する子どもやピエロのイメージについて、映像表現の限界と関連しつつ考察する。 第13回 写生(バイオグラフィー・ライヴ)論 生きた世界を表現するとはどういうことかを、歩くことと近くの関係や世界音楽と関連させて考察する。
- <成績評価方法及び水準>
- 講義は、毎回テーマごと例にした俳句をもとに、後半に、受講生が所定の用紙に俳句を5句以上実作し、その中で優れていると思う俳句に○をつけ、その説明を書いて提出し各回の出席とする。作品の少ない者、書けない者については欠席扱いとする。
その回のテーマに即した俳句を5句以上創作したものを毎回の平常点とし、期末試験では、自作の俳句とその注釈、そしてそれにふさわしい俳画をその場で製作し、両者(毎回の創作俳句と期末試験の俳画)を合計して60点以上の者に単位を認めることとする。講義を欠席した場合は1回につき5点ずつの減点を目安とする。
- <教科書>
- 金子兜太監修『声に出して味わう日本の名俳句100選』(中経出版)
- <参考書>
- 夏石番矢『世界俳句入門』(沖積舎)、水原秋桜子他『カラー図説 日本大歳時記』(講談社)、『KNOTS The Anthology of Southeastern European Haiku Poetry』、松岡正剛『花鳥風月の科学』(中公文庫)、山下一海・川名大編『俳句の本』(朝日出版社)、北川透『詩的レトリック入門』(思潮社)、河本英夫『メタモルフォーゼ』(河出書房新社)、辻信一『スロー・イズ・ビューティフル』(平凡社ライブラリー)、下川耿史編『環境史年表 明治大正』『同 昭和平成』(河出書房新社)
- <オフィスアワー>
- 八王子校舎で、授業終了後10分ほど。
- <学生へのメッセージ>
- これまでの消費するだけの受身一辺倒の側から、作る側への積極的転換のきっかけとしてもらいたい。
ただ生きることの美しさを実感し、個々の創造/想像力の多様な広がりを養うことを期待する。
- <備考>
- 例年とは異なり、本年度は通年でテーマを深化させながら講義をインタラクティヴに進行してゆく予定なので、可能であれば、前期も併せて履修していただきたい。
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