2005年度工学院大学 第1部建築学科 建築学コース
△近代の文学(Modern Japanese Literature)[1419]
2単位 永野 宏志 非常勤講師
- <授業のねらい及び具体的な達成目標>
- 前期のテーマは<俳句とスローライフ>である。
俳句は歩き、書きとめ、声を出して<詠む>。そのとき、あらかじめ世界があるのではなく、世界をそのつど作り出している。詩(ポエム)の語源ポイエーシスは制作することである。近代小説は作者と読者あるいは生産者と消費者を分離し、製作行為を生活世界から締め出した。が、俳句を作ると同時に<詠む>行為は別の形で生きている。現代でも携帯の小さな画面を睨むとき、歩き、移動し、短い電気の文字を打つ。私たちは、近代小説を読むよりさらに俳句に近い身体行為を伴う表現を日々行なっているのではないか。 現代、情報メディアやテクノロジーが固定しがちなイメージと経済優先の時間で消費社会に甘んじる根強い感性を再検討し、その中にあっても多元的な生きた世界を生き、創造するこの私の行為があると信じうるツールとして、俳句をアップデートしたい。 それゆえ、慌しい速度に縛られ、意味と情報ばかりを欲望する経済時間の中でのこの体と意識を次第にスローダウンし、希薄化して行く経験を通じて、知覚や行為がどう作動し、世界の経験がどう立ち現われるのかを、自らのこの生命ある身の丈で実験するツールとして、俳句を捉えなおす。すると、太陽は昇り、雲は流れ、花が道端に出現し、鳥のさえずりが聞こえ、私は世界とともに日々新たな関係を結びなおし、生まれ変わり続けるだろう。 この変換し続けるモードとして世界の表現として、意味やイメージから逸脱しがちな色彩、省略・余白・忘却・沈黙の豊かな表現ジャンルとして、世界最短の詩である俳句から、各自世界を製作する行為(ポイエーシス)を作動させるよう実験を始めたい。
- <授業計画>
- 第1〜3回 色彩論
色彩を認知するとはどういうことか。なぜ色彩が感情と関わるのかなどを代表的な色彩の俳句を例にして、ゲーテ、シュタイナー、ウィトゲンシュタインから科学的、哲学的な考察から、日常を知覚し、表現することの難しさにさいて考える。 第4〜7回 モード論 衣服のような年々流れ去るモノとしての流行というモード概念を問い直す。俳句の世界では花鳥風月は世界も私もモードということだった。なぜそれが、流行という概念に狭まっていったのかを、せわしない近代の経済時間と古代からのスローな文化の時間の違いとし、そこから俳句における時空間について考える。 第8〜11回 余白論 余白を埋め尽くし、すべてを人間世界と思い込む現代でも、余白の力は生きている。むしろ余白と思われていない場所を余白として捉える見方を獲得し、自分の身体感覚と行為から世界を作り出す俳句的なエコロジー感覚を体験する。 第12〜13回 ハイパーテクスト論 作品などの閉じられた世界とは別の、辞書や歳時記のような次から次へ受け渡し、飛び移っていくハイパーテクストとしてこのエコロジカルな世界を構成する俳句における行為について考える。
- <成績評価方法及び水準>
- 講義は、毎回テーマごと例にした俳句をもとに、後半に、受講生が所定の用紙に俳句を5句以上実作し、その中で優れていると思う俳句に○をつけ、その説明を書いて提出し各回の出席とする。作品の少ない者、書けない者については欠席扱いとする。
その回のテーマに即した俳句を5句以上創作したものを毎回の平常点とし、期末試験では、自作の俳句とその注釈、そしてそれにふさわしい俳画をその場で製作し、両者(毎回の創作俳句と期末試験の俳画)を合計して60点以上の者に単位を認めることとする。講義を欠席した場合は1回につき5点ずつの減点を目安とする。
- <教科書>
- 金子兜太監修『声に出して味わう日本の名俳句100選』(中経出版)
- <参考書>
- 夏石番矢『世界俳句入門』(沖積舎)、水原秋桜子他『カラー図説 日本大歳時記』(講談社)、『KNOTS The Anthology of Southeastern European Haiku Poetry』、松岡正剛『花鳥風月の科学』(中公文庫)、山下一海・川名大編『俳句の本』(朝日出版社)、北川透『詩的レトリック入門』(思潮社)、河本英夫『メタモルフォーゼ』(河出書房新社)、辻信一『スロー・イズ・ビューティフル』(平凡社ライブラリー)、下川耿史編『環境史年表 明治大正』『同 昭和平成』(河出書房新社)
- <オフィスアワー>
- 八王子校舎講師室で、授業終了後10分ほど。
- <学生へのメッセージ>
- これまでの消費するだけの受身一辺倒の側から、作る側への積極的転換のきっかけとしてもらいたい。
ただ生きることの美しさを実感し、個々の創造/想像力の多様な広がりを養うことを期待する。
- <備考>
- 例年とは異なり、本年度は通年でテーマを深化させながら講義をインタラクティヴに進行してゆく予定なので、可能であれば、後期も併せて履修していただきたい。
このページの著作権は学校法人工学院大学が有しています。
Copyright(c)2005 Kogakuin University. All Rights Reserved. |
|